ALL THE BEST!(原題)

ALL THE BEST!(原題)

2006年10月21日 我孫子アビイ・ホールにて(東葛国際映画祭)

(2006年:チェコ:93分:監督 マーティン・コティック)

 チェコといえば、アニメーション映画、としか知らなかった私です。

この映画は、プラハの町の若いタクシー運転手のトホホな一日を、コメディタッチでありながらほほえましく、ちょっと脱力しながら、話がトホホに転がっていくのを、皆さん一緒に、はい、トホホ・・・・という「トホホ」ヒューマンコメディです。

 コメディの部分の見せ方の緩急のつけ方がさりげないけれども非常に計算された頭の良さを感じさせるし、プラハの町の風景や、現代のプラハ事情などをうまく織り込んでみせてくれます。かなりの技を感じました。相撲で言うなら、がぶり寄りで寄りきり!という力技でなく、さっと前褌(まえみつ)とって下手投げが、綺麗に決まったような映画です(って相撲わかる人だけわかってください、この例え)

つまり、これだっと言う大げさな事はせずに、ささっと小さなエピソードをつないでいくのが上手いのです。

 プラハの町のタクシー運転手のジャルダの朝から、映画は始まります。

奥さんから、「今日は何の日?」といってカードを渡されて、カードのリボンを引っ張るとオルゴールがぴろぴろぴろ・・・ハッピバースデイ・トゥ・ユー。

タクシー会社の社長から呼び出されたジャルダは、稼ぎ頭だからな・・・とタクシーの新車を与えられる。ラッキーな出だしの誕生日。

 ジャルダは若いけれど、タクシー運転手として運転だけでなく、愛嬌やサービスも上手な世渡り上手。客を乗せて、渋滞にはまっても、「約束に間に合わせてくれたら、お金割り増し!」とお願いされれば、合点承知だ!と一方通行、無視して裏道つっぱしり、客を満足させる。

新車であるのはいいのですが、社長からは、絶対に車を傷つけるなよ!と言われても、大丈夫、大丈夫、楽勝ですよ、社長。

・・・であるはずなんですが・・・・・ちょっとした不注意から、駐車してあるBMWに車をぶつけてしまった!

ここからが、トホホの始まりです。社長に見つかったらクビだ、クビは困る、車が直るまで無料で送り迎えするから、黙っててくれない?と言う交渉にしますが・・・・乗せた男が、なんだかあちこち意味不明にジャルダを振り回す。

 ジャルダの車には携帯電話が、ラウドスピーカーで取り付けられていて、奥さんからの電話、はいいのだけれど、ちゃっかり若い愛人まで作っていて、車の中で、話をする。

ところが、愛人の存在が、またトホホなことから奥さんにばれてしまい、愛人にはうそがばれてしまい、何も知らない社長からは公私混同した命令が飛んできて、後ろに乗せている、正体わからない男は、ふんふん、とその成り行きを聞いてはいちいち口を出す。

 だんだん、短気なジャルダは、誕生日だっていうのに、全くなんて日だっ、と怒るのですが、愛人にも奥さんにも、言い訳をして、社長の雑用をこなさなければならない。

 ジャルダ、というのはいわゆるブルー・カラーの職業なんですね。だから、失業することをとても恐れている。嫌な客乗せちゃったな、と思ってもきちんと仕事は遂行するのです。ジャルダいわく、「誰もタクシー運転手には嘘がつけない」

悪い男ではなく、むしろ、愛嬌のある青年なんだけれど、遊び人でもあって、でも憎めない、浮気や嘘の当然の罰を受けることになっても、観ている側は、トホホの連続でだんだん元気がなくなりつつあるジャルダに元気になって欲しいと思う。

もうちょっといいことあってもいいんじゃないの?

 撮影は車の中が多いのですが、よくある車内からではなく、この映画は、フロントガラス越しの映像というのがとても多いです。

正面から運転している姿を映しています。

 タクシーの中のシーンが多いのにジャルダをとりまく人間模様は複雑になってこんがらがってきます。どう収拾つけるのかな?が見所。

だんだん、乗せている中年男のことがわかってきて、中年男もジャルダの心配をするようになって・・・・タクシーの運転手と客、という狭い空間の中での他人が近づいていく、というのをコメディタッチで見せてくれます。

そして、ジャルダは、やっぱりプロのタクシー運転手なんだ、と仕事への誇りの描き方などもさりげない人間、職業賛歌になっていて、トホホって思いながらも、なんだかやっぱり、仕事に誇りを持つことは大変だけど大切なんだな・・・と身にしみる人間劇となっていました。

 ジャルダを演じたジャン・ドラスキーという役者さんはチェコでは人気俳優さんだそうで、何故かこの映画のチェコの男性はひげをはやしています。

ジャルダもひげをそれば、ちょっと童顔でかわいいのに、そこを無理してひげはやしていて、大人ぶってる感じがよかったですね。

監督によると、ジャルダという主人公の性格はこの俳優さんの性格、楽天的で、いたずら好きで遊び好きでちょっと短気、そのままなのだそうです。

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