あなたになら言える秘密のこと

あなたになら言える秘密のこと

The Secret Life of Words

2006年10月22日 青山 東京ウィメンズプラザにて(第19回東京国際女性映画祭)

(2005年:スペイン:114分:監督 イサベル・コイシェ)

2005年 スペインゴヤ賞 最優秀作品賞、監督賞、脚本賞受賞)

 ある事件、戦争がニュースで報じられる事は多いのですが、その後、どうなったのか・・・まではなかなか報じられないものです。

どんどん人目をひくようなニュースが次々と発生して、事件があった事、それに巻き込まれた人々のことは忘れられてしまう。

日本のドキュメンタリー映画『蟻の兵隊』では、「戦争に関わったひとりのその後の60年」を針の目で追うような感じとよく似た映画ですが、この映画はあくまでも、ストーリー映画です。

 主人公のハンナ(サラ・ポーリー)は、殻にこもり工場で黙々と真面目に仕事をこなし、家に帰るだけの生活をしています。

親しげに誰かとしゃべったりすることはない・・・監督がこの映画は「沈黙の映画」です、と語っていましたが、本当に何も語らないハンナ。

勤務態度に問題ないけど、あまりに周りにうちとけないから・・・逆にクレームが来ちゃってね・・・と上司から言われて、休暇。

しかし、ハンナは休暇といっても、遊ぶようなことはしない。

「暇につぶされるまえに、暇をつぶすのだ」と、ある海洋に浮かぶ油田採掘場で起きた爆発事故で、事故にあった男性(ティム・ロビンス)の看護を引き受ける。ハンナは、看護の資格を持っていました。

ヘリコプターでしかいけないような、海にそびえたつ油田採掘場。事故の後、本当に数名の男しか残っていないさびしいところ。

でも、「語りたくない」ハンナには、ぴったりです。

 しかし、看護することになった、男性は事故で目が見えない状態です。

色々と話かけるけれど、貝のように口を閉ざし、自分のことを語らないハンナ。そんなハンナにどんどん興味を持っていく男。

何故、男が事故にあったのか、、、も事情がある。

ハンナにも話せない事情がある。

 べらべらとすぐに口に出る、愚痴や文句や不平というのは、しゃべることで、「憂さ晴らし」になるのでしょうが、本当に知られたくない、思い出したくない程、深い傷、というものをこの映画は描いています。「癒す」というのは「気晴らしできた」「和んだ」くらいではなく相当な深い傷がなおる事を言うと思うのですが、ハンナの傷は癒されることはないのだろうか。

 サラ・ポーリーは決して無愛想ではないけれど、表情が全くない。最初は軽口をたたいて詮索していた男もだんだんハンナの沈黙がわかるようになり、しかし、2人の会話は少しずつではありれど、打ち解けていきます。

私はこのだんだん、沈黙を受け入れるようになってくるティム・ロビンスというのがとても良かったですね。むしろ、黙って側にいてくれるだけの方が気が休まるのだ・・・という表情になってくる。

ハンナは自分の事を語らないだけでなく、聞いてしまった秘密をきちんと守ることが出来る。それが信頼のひとつです。

 説明的な展開はなく、どちらかというと、何故、この人はこんな風なの?この人になにが起きるの?何があったの?というミステリーを解いていくようなミステリタッチの展開です。

だから、最初はなにがなんだかわからないのです。最後の最後になって、ジグゾー・パズルのピースが集まったようにやっとハンナの中の何が・・・がじんわりわかるような仕組みになっていますね。

 工場に持っていくランチは、いつも「リンゴとチキンと米」だけで、冷蔵庫の中にもそれしかない。

休暇に行くときは一人、バスの中で刺繍をしているけれど、バスを降りれば、刺繍をすぐに捨ててしまう。

何が楽しくて生きているのかわからない女性。話してくれない女性。聞いてはいけない女性。油田での食事が単調だ、と文句が出ても、そんなことは全く気にしない女性。

沈黙とそしてそのことからへの解放というより開放を描いた静かな映画です。

製作総指揮が、ペドロ・アルモドバル、というのは納得がいきますね。

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