黒眼圏(原題)
黒眼圏/I Don't Want to Sleep Alone
2006年11月26日 有楽町 朝日ホールにて(第7回東京フィルメックス)
(2006年:台湾=フランス=オーストリア:118分:監督 ツァイ・ミンリャン)
特別招待作品/クロージング
黒を基調にした、どっしりと落ち着いた映像が素晴らしい、の一言。
台湾で活躍されている監督ですが、出身はマレーシアで、この映画の舞台となるのは監督が20歳まで過ごしたマレーシアの街です。
この映画には、台詞らしい台詞はありません。
特に主人公といえる男(リー・カンション)と男の出会う女性(チェン・シャンチー)には台詞がひとつもありません。
周りの人々が少し、台詞があるだけで、後は全て迫力ある映像で、押し切ってしまっているものすごいパワーを感じます。
1シーンがとても長く、カメラは滅多に動きません。
放浪者のような男・・・博打でボコボコにされた所、バングラディシュからの労働者の青年に拾われる。
このバングラディシュの青年は、何故か、素性のわからない男をかいがいしく介抱し、自分の家に住まわせる。
それに対して何も言わない男。
そして、安食堂で出会った女性、チー。チーは店の女主の寝たきりの息子の介護もしている。
その介護される息子もリー・カンションが演じているそうですが、言われないと気付きませんでした。
バングラディシュの青年が、世話をするのと、チーが介護するのでは、明らかに気持が違います。
好意的に親身になる青年と、嫌々ながらもてきぱきと介護をする女性。
この様子も長い1シーンで、丁寧に映しています。
男は女主とも以前親しかったようですが、今、惹かれるのは、若いチー。2人は、廃墟のような所へ行く。
この廃墟のようなロケーションが凄いですね。建物がもう、オペラハウスのようですが、これは90年代のマレーシアの建設ラッシュで出来たもののすっかり経済危機に陥ってしまい、放置された実際の建物でロケしたそうですが、この奥行のある大きな建物の迫力。
そして、そこには池があるのですが、釣をしているとき、大きな蛾が飛んでくる。
この蛾が、美しい動きをするのですが、特撮だと思ったら、蛾が1テイクで見事な演技をしてくれたそうで、あの蛾の動きは計算されたものとしか思えないのですが、自然の動きなのですね。このシーンはとても幻想的で印象に残ります。
もうひとつ印象に残るのは、男は路上で、細いプラスチックの束の先に色鮮やかなライトがつく飾り物を売っているのを見つける。
安食堂のチーに、いきなり紙袋を渡す。チーの部屋は暗い屋根裏部屋です。
袋をあけると、色鮮やかな光を発する飾り物が暗い部屋に光る。暗い深海で、わずかな光を見出したような映像。
ここでチーへの気持と、その美しさがとても際立っていて、その光を見つめるチーの顔に少しだけ笑みが浮かぶ。それだけで、心温まるような心持になるのです。
この映画のタイトル、黒眼圏というのは、目にできた青あざのことだそうですが、映画としては英語のタイトル「ひとりで眠りたくない」の方がわかりやすいかもしれません。
放浪の男と安食堂の女、バングラディシュの労働者の男・・・・3人がひとつのマットに横たわる・・・そんなシーンの撮り方ひとつとっても個性的で、観る者を圧倒します。
映像の力をこれほど強く感じた映画はありません。力強い息づかいと熱気がびしびし伝わってきます。
この映画がクロージング上映だったことをとても嬉しく思います。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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