半月
Niwemang/Half Moon
2006年11月25日 有楽町 朝日ホールにて(第7回東京フィルメックス)
(2006年:イラン:114分:監督 バフマン・ゴバティ)
コンペティション作品
この映画でイラン映画史上、初めての試みをしているそうです。
それは何か・・・というと、「女性がひとりで歌うシーンがある」です。
いや~アフリカ映画でも女性が堂々とソロで歌うシーンがあったのに、これはびっくりでした。そしてそのことで、イラン政府から正式な映画上映の許可がもらえていないのが現状だと、監督が話されていました。
女性に対する差別というか、女性の行動を規制するのは今回の東京フィルメックスでも、『オフサイド』ではサッカー競技場に女性は入れない、というイランの現実を映画にしていました。
普通私たちが、テレビで目にする中近東の風景は、なんだかいつも戦争だったり、テロだったり、地震だったりします。
でも、人気のある歌は?といった普通の生活は全くといっていいほど、日本には伝わっていないのだ、と中近東の映画を観る度に思います。
そして中近東映画というのは、映画祭や特別上映でしか観る機会がない、とも言えます。
映画、というのは「お話」だったり「作られた世界」だったりするわけですけれども、どの国であってもその国らしさ、というものや、日本との違いなどを感じられるいい機会だと思うのに、なかなか、商業ベースにのらない映画は陽の目を見ることなく、そして私たちは、世界のことに無知なままなのですね。
バフマン・ゴバティ監督は、クルド人です。イランのクルディスタン州の出身で、クルド人の姿を描くことが多いのですが、その世界は、厳しいながらも、いつでもユーモアがあり、歌があり、人情味のある映画を作ります。
そして子供たちの姿というのも描かれます。大人の男と女が見つめ合って、えんえんと話を続けるなんてシーンはないです。
人々が生活して、生きる姿を映します。ゴバティ監督の映画はいつでもタイトル『生きる』でもいいくらいです。
さてこの映画は、クルド人の国民的歌手、といってももう老人のマモが、35年ぶりにクルド領でコンサートが開けるということで、「息子」と呼ぶ楽団や女性の歌手などを集めて、バスでクルディスタンに行こう・・・とする過程を描きます。
映画は、洞窟でこっそり行われている闘鶏のシーンです。その場を仕切っているのがカコという男。
なかなか弁のたつ男で闘鶏の前に「キルケゴールいわくだなぁ~~」などと拡声器で叫び、幼い息子たちは、アコーディオンや太鼓をたたいて雰囲気、盛り上げています。
そこへ、マモからの電話。「おお~~~~歌える!ではでは、早速、バラバラになった人を集め、バスをば調達しましょう~~」と闘鶏を放り出して、マモのコンサートに奔走する。
楽器を演奏する男たちはそれぞれ仕事を持っています。娘も行きたいというけれど、小学校の先生をしているため、子供たちのために残りなさいというマモ。
学校といっても校舎はなく、青空の下で、男の子たち、女の子たち・・・と別れて座っています。
子供たちが「あ、マモだ~~~サインもらおう~~」と近寄ってくる所で、マモという人がどれだけ知名度のある大歌手なのか、ということをさらりと描いています。
マモは絶対に女性の歌が必要だ、と言いますが、それは禁じられているし、女性は国境を超えられないし・・・と言ってもマモはどうしても譲らない。
そこで、女性歌手1334人が閉じ込められている山間の村というのが出てきます。
歌を歌う女性はここに皆、集められて歌うことを禁じられている。しかし、マモが行くと色とりどりの美しい女性が太鼓を手に、歌を口に歓迎する。
そこにはマモが必要とする歌手の女性がいるのです。
このシーンがとても美しい。山の谷にはりつくような石造りの家。そこに女性たちの澄んだ歌声が聞こえてきます。
幻想的なシーンですが、監督によるとこのシーンは女性の歌ということで6分カットしたそうです。
カットしても許可もらえなかったから、カットしなければよかった・・・と言われていました。
トルコとクルディスタンの国境近くになると、女性歌手はバスの床に隠して、なんとか国境超えをしようと試みるマモたち。
しかし、兵士たちに女性歌手は簡単につかまり、大切な楽器はめちゃくちゃにされてしまう。
徒歩でもなんとしてでも、行こうとするマモたち。そこへクルド側から、助っ人がやってくる。しかし、周りは雪で、寒い中、マモの体調はどんどん落ちていく。
皆、マモの歌を待っているんですよ・・・マモは女性歌手と楽器を奪われたことにがっかりしていますが、マモをクルドに案内する若い女性は、綺麗な声で歌を歌う。名前は・・・と聞くと、「ニウマン(半月)」と答える女性。しかしマモの体力は限界に近くなってしまっています。
イランという国、その中のクルド人という姿を、「戦争」ではなく「歌」で表現する、という監督のセンスがとても好きです。
悲惨な現状を訴えるドキュメンタリータッチではなく、あくまでも、美しい寓話であり、同時に厳しい現実の空気を漂わせ、しかし、生きる人々の楽しみ、というものをとても大事にしています。
そういう厳しい中から生まれた美しいもの、愛しいもの、それを描かせたらバフマン・ゴバティ監督はずば抜けたものを持っていると思います。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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