オフサイド
Offside
2006年11月24日 有楽町 朝日ホールにて(第7回東京フィルメックス)
(2006年:イラン:88分:監督 ジャファル・パナヒ)
特別招待作品 *アニエスb観客賞受賞
世の中にはルールがあって、「行ってはいけない場所」というのがありますね。
しかし、それには何かしら理由があるわけです。
以前、韓国の人気俳優、ペ・ヨンジュンが来日した時、宿泊ホテルにファンがつめかけて、道にあふれたファンが車にぶつかり、交通事故を起こした・・・というニュースがありました。私は、何故、「自分が見たいから」という理由だけで、呼ばれもしない所に追いかけて行き、迷惑行為を起こすのか、とその節度のなさに溜息をつきました。
この場合、宿泊ホテルというのは「プライバシーの場」であって「行ってはいけない所」なんです。
この映画は、実は「行ってはいけないところ」に「どうしても行きたい」という女の子たちの奮闘を描きます。
イランでは、サッカー競技場に女性は入れない、という決まりがあります。
しかし、2006年のドイツ、ワールドカップ出場をかけたイランvsバーレーン戦。
競技場に向かうバスの中はすでにお祭り騒ぎが始まっています。
しかし、一人静かにしている若者がいる・・・・よくよく見ると女の子。
女の子はどうしても、どうしてもサッカーが見たい・・・・男装してもぐりこもうとする。チケットも男性客より凄く高い値段をふっかけられても、試合が見たい。
ところが、簡単に警備の兵士に見つかり、競技場の外に作られた柵に隔離。
しかし、そこにはやはり、「サッカーを見たい」と来た女の子たちがいました。
兵士に監視されて、競技場からは男性たちの歓声が聞こえる。じりじりする女の子6人。
この6人がそれぞれ、個性があってよかったですね。兵士につっかかる女の子、兵士の制服を盗んでしまう子、しくしく泣いてしまう子・・・男っぽい女の子は兵士に「日本vsイラン戦では、日本の女性観客を入れたじゃないか!じゃ、何故、私たちはダメなんだっ」と詰め寄る。
兵士は、若い2人と責任者らしい年長の男性。
しかし、理由を聞かれても困って、「日本人には汚い言葉がわからないじゃないか」と妙に弱気。
女性たちが入れないサッカー競技場。問題は「はっきりとした理由がない」なのです。
とにかく女の来る所じゃないんだ、しか言えない、それじゃ、女の子たちは納得いかない。
頭から押さえつけようとする側とそれを責める側。それを、サッカー競技場に入れない女の子たちと監視の兵士にしたアイディアが上手いです。日本には、イランの習慣などまだまだ未知の部分が多いけれど、これはとてもわかりやすく、共感できるアイディアになっています。
日本でも相撲の土俵には女性はあがれないのが、現実問題としてある訳ですけれども、やはり昔は「女人禁制」という場が日本にもたくさんありました。何故か、を疑うことなく、「決められているから」だけで従うということに疑問を投げかけています。
兵士たちも「上から怒られるから」という理由しかなくて、体制側なのに、だんだん女の子たちに同情的にもなりますが、やはり、競技場へ入れることは出来ない。悲しい中間管理職みたいです。
しかも、女の子のひとりが、「トイレに行きたい」と言い出す。もちろん女性トイレなんてないから、男性トイレに・・・になりますがそこでまた大騒ぎ。
女の子たちのサッカーが見たい、という豊かな表情と、その間に挟まれる兵士たちの困惑。
そして、イランはワールドカップ出場を決めます。
街はもう、お祭り騒ぎで「兵隊さんも一緒に祝え!」とか人々に担がれていってしまう所なんてとっても皮肉です。
堅苦しく言えば、女性の権利の主張とも言えるのですが、映画の雰囲気は、ちょっとユーモラスで色々と考えさせる上手い映画です。
この映画が、中近東映画が人気あまりない中で、観客の投票で観客賞を受賞したことがとても嬉しいです。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
0コメント