幸福(しあわせ)

幸福(しあわせ)

The Happiness

2006年11月23日 有楽町 朝日ホールにて(第7回東京フィルメックス)

(2006年:日本:105分:監督 小林政広)

コンペティション作品

 最初に、字幕で、「幸せ、それは拾うもの」といきなりでます。

幸せは、自分の手や力でつかむ、または、幸せ探し・・・のように求めて探すもの・・・のようなイメージを持っているところでいきなり、「拾うもの」

必死になってもがいても、幸せは思い通りに手に入らない。そして何をもって「しあわせ」と思うのか・・・そんなことを静かに問いかける映画。

 去年の『バッシング』と同じく、荒涼とした北海道の町、勇払という駅のホームに1人の男(石橋凌)が降りる。

手にはマジソンスクエアガーデンのバッグひとつ。

そして、ぱたん、と倒れてしまう。

そんな男を「拾った」のが、バーで働く無口な女性(桜井明美)・・・町も閑散としていますが、女性の住むアパートも家具らしい家具は何もなく生活感というものが全くない。

 そしてこの町は白夜の町です。夜の来ない明るい中で、バーの開店準備をする女性。

そしてバーのマスター(村上淳)・・・このバーもまた閑散としていて客はいつも1人の男(香川照之)がカラオケで『心凍らせて』という曲を熱唱するだけの店。この客の気に入りのホテトル嬢(橘実里)のヒモは、バーのマスター。

 出てくる人はこの男3人と女2人だけといってもいいくらいです。

広いような狭いような、白夜で明るいようでも、暗いムードの寂しい町。そんな中で、距離をとりながらも肩を寄せ合うようにして過ごす人間の中の孤独のようなものが、ぽっかりと浮き出ています。

 男は何の為に勇払の町にやってきたのか。女は何者なのか。この2人はどこか歯車がはずれてしまったような2人です。

歩き方が、前のめりのような、小刻みのような不思議な歩き方をする。

まっとうな暮らしをしているとは思えない大人の心の中には何があるのか・・・もしかしたらこの勇払の町のように何もなくて、寒くて、昼と夜の違いもなんにもなくて、がらんとしているのではないか・・・と観ていて思います。

 隙間風がいつも吹いているような風景の中にたたずむ人々。

 生きる望みを失ってしまったような、それでも何か頑固なものを感じさせる石橋凌。

貝のように心を閉ざしてしまっている女を演じた桜井明美。

傍若無人のようでいて、人情味のある村上淳。

カラオケで同じ歌をいつも違う風に歌う、俗物丸出しの香川照之。

そんな役者たちの姿がとても悲しく思えます。でも、不思議と気の滅入るような暗澹とした気持にはなりません。

どこかユートピアのような気すらしてしまうのです。

 いつも短い時間の中で映画を作り上げる小林政広監督ですが、今回は10日・・・それでもいつもより余裕があったという事です。

小品映画ではありますが、人間の中の貧しさと豊かさを、これほどきちんと見せた映画が作れる、ということに感心してしまいました。

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