天国へ行くにはまず死すべし

天国へ行くにはまず死すべし

To Get to Heaven First You Have to Die

2006年11月23日 有楽町 朝日ホールにて(第7回東京フィルメックス)

(2006年:タジキスタン=フランス=ドイツ=スイス:95分:監督 ジャムシェド・ウスモノフ)

コンペティション作品 *最優秀作品賞受賞

 タジキスタンの映画ですが、昔だったらソビエト映画ということになるのでしょう。

 しかし、描いているのはこれがタジキスタンだ、という民族性ではなく、ひとりの20歳の青年の悩みと憂鬱です。

どこの国の映画でもおかしくない設定をあえて持ってきたというのが、勇敢というか、自信があるのだろうと思います。

監督自身の言葉によれば、(タジキスタンの)民間伝承を隠れ蓑にすることができないゆえに、不安定な立場になってしまったとのことですが、映像は安定感がありますが、描いているのは不安と惑いと憂鬱です。

 20歳でもう結婚している青年カマルは悩みがあります。

まだ若いのに、性的に不能だということで、病院に行っても何が原因なのかわからない。

カマルは、女性と出会って、「自信を取り戻したい」と思うかのようにタジキスタンの町を彷徨う。

いとこの家に行けば、元気ないとこは、すぐに売春婦を紹介してくれる。

しかし、どうしてもダメなカマル。

そんな時、バスの中で、ヴェラという女性に出会う。なんとか親しくなったものの・・・・いきなり現われたヴェラの夫。

 ヴェラの夫に出会う前は、色々な女の人に近づいていくカマルが、可愛いような、困ったような描写があるのですが、夫と一緒に盗みを始めたとたんシビアな現実の世界にひきずりこまれてしまう。

 変わりたいカマルと、やり直したい男、そんな夫とは冷たい関係の妻。

このヴェラという女性を演じたのが、『動くな 死ね 甦れ!』で少女、ガレーヤだったディナラ・ドロカロヴァ。

ヴェラという女性は、口数が少なく、どこか薄幸そうです。

 カマルといえば、あまり表情を変えず、憂鬱そうな顔も、嫌そうな顔も嬉しそうな顔もしない。

ただ、自分から何かをしないと、変わらないということはわかっているのだけれども、何をしたらいいのかわからない、困惑の表情を浮かべています。

 それはこの映画では、性的に不能ということですが、どうしたら自分に変化を起こせるのか・・・・他力本願でいいかもしれない・・・誰かがなんとかしてくれるかもしれないというのは20歳の憂鬱、まだまだ若くて過去に引きずられることのない万国共通の若さゆえの迷いとそして希望でしょう。

しかし、カマルの場合はとんでもないことに巻き込まれてしまう。

 カマルと夫が盗みの後、ボートに乗る。最初はゆっくりと進むボートが突然、スピードを上げて急旋回をするとき、一瞬動くカマルの表情。

いつ、どこで、カマルの気持と体に変化と成長が出たのか・・・というのは明確に説明はしないのですが、このボートの一瞬の驚いたような、目を醒ましたような表情の変化とか、大変この映画は、繊細なのです。

しかし、同時に強引という相反するものも持っています。

そんな強引さにゆさぶられないと目覚められなかった青年の姿に未来はあるのだろうか、まだまだ不安の残る未来への第一歩、そんな事を思いました。

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更夜飯店

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