アザー・ハーフ

アザー・ハーフ

Ling Yi Ban/The Other Half

2006年11月22日 有楽町 朝日ホールにて(第7回東京フィルメックス)

(2006年:中国:111分:監督 イン・リャン)

コンペティション作品 *審査員特別賞受賞

 去年、『あひるを背負った少年』で審査員特別賞を受賞したイン・リャン監督の新作。

 冒頭、手前から白いシャツを着た男性が自転車に乗ってでてきて、それがずっと行って、小さくなったところで、かしゃん、と倒れる・・・このシーンでもう独特の空気をばし、と出していました。

何気ない風景でも、何を訴える情景でもないのに、独特の空気を出してみせる。文章で書くと、なんだ、こんなこと・・・なのかもしれませんが、スクリーンから発せられる独特の空気はなんともいえません。

 前作では洪水で避難警報が出された町が舞台でしたが、今回は化学工場の汚染問題でゆれる田舎の街が舞台です。

主人公となるのは、小芳(シャオメイ)という法律事務所に事務を始めたばかりの22歳の女性。

シャオメイは、ドンガンという男と同棲していますが、ドンガンはギャンブルばかりしている生活力のない男。

誰からも「チャン・ツィイーに似てる」と言われる美人のシャオメイですが、どんなドンガンとの暮らしに終止符を打つ気持はないのを母は心配しています。

母は見合いの話を持ってきてはきちんと収入のある男と結婚することをしつこくすすめる。

生活力がないくせに、独占欲の強いドンガンはそれが気に入らない。

 そんなシャオメイの物語の合間に挟まれるのは法律事務所に訪れる様々な人々。

これは、実際あった事例を集めた上での脚本だそうですが、名前、年、職業が字幕で出て、ドキュメンタリータッチで描かれる街の人々の訴えの数々。

シャオメイはその記録係。

 偽装離婚をしたい女性、子供の養育権を別れた夫から取り戻したい、社員から訴えられた社長、病院沙汰になったケンカをした女性、死んだ夫の労災を受け取りたいという女性、夫の暴力に耐えかねている軍人の妻・・・・もう、様々な訴えをリアルにドキュメンタリータッチで綴ります。まるで、自分が相談を受けているような迫力があります。

 そんな時、ドンガンが行方をくらましてしまう。しかもシャオメイの見合い相手を殺した容疑者として追われているという。

街は、化学工場の汚染問題でゆれている。

 そんな不安定な空気、切迫した空気の中で、ひとりの女性が働く姿を淡々と追います。

そして恐れていたガス爆発がおき、人々は避難する。だれもいない街に、「避難は解除されました」というアナウンスが流れ、シャオメイはひとり、誰もいない街に足を踏み入れていく。そして、ドンガンからの電話の声が聞こえる。上海でオレは成功したよ・・・誰も信じない避難解除も偽りだろうし、ドンガンの言葉も明らかに偽りです。シャオメイはひとり、くずれおちる。

 監督は、変化を続けることによりあるかもしれない希望と、田舎の街の相変わらずの絶望とを両方出し、また、中国の人も知らない中国の姿を切り取ってみたい、と話されていましたが、ドキュメンタリータッチでありながら、ずっと続く不安のような不安定のような空気。ストーリーよりもそんな空気がとてもクリアに伝わってくる映画です。また、ひとりの社会人としてきちんと社会を見つめ、伝えなければならないと思うと語られていました。

 

映像は、DVで撮影されていて、独特の透明感を持っており、不安感がひしひしと伝わるような説得力のある静かだけれども、これからの自分達、若者をしっかり見つめたい意識というのが感じられるのです。

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