斬る

斬る

Kill!

2006年11月21日 京橋 フィルムセンターにて(第7回東京フィルメックス・岡本喜八監督特集上映)

(1968年:日本:114分:監督 岡本喜八)

 英語タイトルが'Kill!'というのが、発音ほぼ同じなのに、「斬る」とはニュアンス違うのですが、面白いタイトルのつけ方だなぁ、と。

 『大菩薩峠』で狂気の剣をふるっていた仲代達矢ですが、この映画は、ユーモアと風刺と活劇と・・・といった娯楽要素がたっぷり楽しめる娯楽時代群像劇。

 ある風が吹き、荒れ果てた村に2人の男がやってくる。

1人は、農民から武士になりたいとやってきた若者、田畑半次郎(高橋悦史)

もう1人はもと武士で今はやくざの無宿人となった源太(仲代達矢)

 とにかく武士になりさえすればいいのだっと先の事を何も考えない農民の若者と、武士の馬鹿らしさを十分熟知している元武士の無宿人。

藩の策略に巻き込まれてしまう様子をテンポよく、テキパキと、大胆な発想で、スピーディに駆け抜ける映画です。

 たくさんの人々が出てくるのですが、そこに一貫して描かれるのは武士階級への強烈な皮肉です。

裏切りに策略に賄賂に・・・・そして藩主に利用されるだけされて、捨てられてしまう7人の若者たちを戦いながら救うという、2人を描きながら、武士階級=支配階級の愚かさを浮き彫りにしています。

武士になりたい田畑半次郎は、やたら「斬る」を連発します。源太が、「そうなの?」と聞くと「いや、突く!」

武士としての剣術を学んでいない力だけはある半次郎にできることは刀で突くことだけなのです。斬る、というのは剣術で刀が使えていないとできないことなのです。

だんだん、武士の争いが見えてきたころに、源太は「どうだい?侍ってものが少しはわかってきたかい?」と半次郎に聞きますが、最初は「わからん!」と意地をはっていた半次郎も、だんだん、なんとなくおかしいな・・・と内心思っても鼻をふくらませて意地をはるのを源太は、傍観しています。仲代達矢が飄々としてなかなか見せない、本当の力の見せ方が上手いですね。

 農民丸出しなのに、見栄ばかりはる若者、高橋悦史が純朴なのに比べ、侍くずれの無宿者、仲代達矢は海千山千の策士です。

この2人を中心に、様々な人々の姿を時にコミカルに、時にシリアスに描いていきます。

とぼけた家老、東野英治郎や飄々とした風流和尚、今福正雄もいるかと思えば、熱血の若武士、中村敦夫や、ストイックで真面目な正義感の強い浪人隊長の岸田森など、対照的な人々をうまくブレンドして、藩主のあくどさをあばいていく爽快さもあります。

 大変よくできた映画で、ユーモアを決して忘れない精神と、支配階級への反骨精神がみなぎっていながら、見事な人間群像劇になっていました。

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