クロース・トゥ・ホーム

クロース・トゥ・ホーム

Karov la bayit/Close to Home

2006年11月20日 有楽町 朝日ホールにて(第7回東京フィルメックス)

(2005年:イスラエル:90分:監督 ダリア・ハゲル、ヴィディ・ビル)

コンペティション作品

 イスラエルの2人の女性監督の共同監督作品です。

ベースとなっているのは、イスラエルには50年前から18歳以上の女性にも兵役義務がある、という事実です。

当然、2人の女性監督も映画に出ている女性達も兵役に服した経験を持っていて、観客から「兵士を演じさせるにはどういう指導をしたのか?」という質問が出たのですけれども「皆、経験者なので何も指導はしていません。皆、よくわかっているから」と即答。

ただ、男性は軍隊経験を武勇伝のように語る人が多いが、女性の方はあまり語らない、という事実もあるそうです。

だからこそ、今、映画という手法で語らなければならないのではないか、というのが映画を作った動機だそうです。

 まぁ、東京国際女性映画祭で上映してもいいような「外国の女性事情」なのですが、ではこの映画は政治的なメッセージを発しているか、というと全体の雰囲気は、普通の女の子映画です。

声高に反対したり、といったことは全くといっていいほど描かれません。

 主人公になるのは18歳くらいの女の子で兵役についたばかりのミリトという女性というよりまだ女の子です。

何をするのかというと、2人一組になって街をパトロールしパレスチナ人(字幕ではアラブ人)らしき人を見かけたら声をかけて身分証明書を確認して記録をつける、ということです。

そしてミリトのパートナーになったのがスマダルという同じ年くらいの女の子。

 この映画はミリトとスマダルという2人の女の子の映画で、積極的で気の強いスマダルと消極的で真面目なミリトは、最初はあまり上手くいかない。

規則厳しいけれど、スマダルは平気でサボるし、規則は破るしで、真面目にやろうとするミリトは内心、おもしろくない。

こういうことは、結構、どこにでもある状況で、「正直者は馬鹿を見る」ミリトと、「世渡り上手」なスマダル・・・最近だと嫌な言葉ですが「勝ち組、負け組」とか、十分納得のいく状況なのです。

 一応、兵役という義務ですから、気が合わないからといって、パートナーを変えるといったわがままは許されません。

仕事では、こういったことはあるのですが、よくよく考えるとこれは仕事ではなく、義務。

うーん、義務か・・・日本人の3大義務って、教育、労働、納税なんですけれど、あまり普段から意識していないことに気がつきました。

2人の女の子は、日本人が義務教育を当然と思っているように、兵役も当然、と思っています。

タイトルの「クロース・トゥ・ホーム」は軍隊用語で、女性兵士の場合は、学校や会社に自宅から通うように軍隊に通うということだそうです。

だから、ミリトは家に帰って、着替えれば普通の女の子の生活をしています。スマダルといえば恋人と同棲中。

女性兵士たちは、ストレスからか、とにかく煙草をよく吸う。イスラエルでは女性の喫煙者がとても多いそうですが、軍隊で覚えることが多いそうです。

 記録者が少ないと怖い女性上官の厳しい叱責が待っている。それでも平気でさぼるスマダルにミリトは困ってしまうのです。

そんな時、いきなりテロ事件がおき、気絶したミリトを素敵な男性が助けてくれる・・・というあらあらな展開になります。

男性のことになると積極的なスマダルは強力な助っ人になりますが、ミリトは恥ずかしがって、でも気になって・・・あれこれ細々とその男性に近づこうとします。ここら辺になると岩井俊二監督の『花とアリス』。

自由奔放なアリスと引っ込みじあんの花の2人が、憧れの宮本先輩に近づこうとする・・・って所とよく似てきます。

 しかし、テロ事件以外は、特に劇的な事を描かず、だんだんミリトとスマダルは、その距離を縮めていきます。

他の女性兵士たちとも通じてきて、女上官が巡回となると電話は禁止だけれども、こっそり「今、そっちに行った!」と携帯電話で連絡を取り合う。そこら辺の女の子(というか人間の集団の中での)連帯感の出し方なんてとてもすんなりスムーズです。

この「すぐに~になる」ではなくて、「だんだん~になる」というのがとても上手い映画だと思いますね。

まぁ、ミリトは「すぐに」助けてくれた男の人を好きになってしまうのですが、その後は「だんだん~になる」のです。

 日本人からしたら考えられない女性の兵役義務を描きながらも、そこに描かれているのは、女の子たちの等身大の姿であり、だから兵役をどうこうしろ!ということはないのです。

映画は、事実をぽーんと観客に提示するだけです。しかし同時に若い女の子の友情と青春のドラマになっているのがラストの2人の表情を見てわかるのです。

しかし、義務って何?と改めて、私は考えてしまいました。

0コメント

  • 1000 / 1000

更夜飯店

過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。