りんご、もうひとつある?

りんご、もうひとつある?

Baaz ham sib daari?/Have You Another Apple?

2006年11月20日 有楽町 朝日ホールにて(第7回東京フィルメックス)

(2006年:イラン:90分:監督 バイラム・ファズリ)

コンペティション作品

 私、この映画とても好きなんですね。

まずは、タイトル。りんご、もうひとつある?ってどんな映画かと思いますね。

それから、カメラ。監督は撮影監督として活躍してきて初監督作品なんですが、砂漠を走る馬とたくさんのオートバイ・・・が疾走するのを大胆で安定した移動カメラで撮影他、主人公がとにかく走る姿も同様。カメラの動きがとても安定していて、東京フィルメックスの映画はハンディカメラで撮影したような映画が多いのですが、この映画のカメラの安定感がとても好きなんです。

そして寓話性。別にどこの国のいつの時代かわからない「ある国」と寓話性を持たせて、不思議な人々を皮肉に描いていて、昔のような近未来のような・・・そんな不思議感がいいです。残酷なシーンもあれば、なんだかおまぬけなエピソードもあり、で頭で「お話」を一生懸命理解しようとする観客からしたら、なに?これ?と拒絶されてしまうかもしれないことをあえてやっている勇敢さ。

ちょっとありえない馬鹿馬鹿しさがあって、恐怖の存在でもある「ダスダラン」という氏族も、なんだか何者なんだかわからないけれど、頭目一人が馬で、後は皆おそろいのオートバイでどどどど~~~っていう絵がね、私は気に入りました。

美術もいいですね。衣装がダスダランは黒、ある村は白、別の村は赤・・・といった風の衣装で、それぞれがひとつの国みたいなんです。

村は、家や建物がすべて小枝を集めたものなのですが、周りは砂漠。木なんか全く見えないのに石造りの建物はなくすべて「小枝の建物」

グリム童話みたいですね。

 主人公は、馬に乗った母親から、「働けっ!」とムチで追い回されているひとりのいい年をした男。

とにかく逃げ出してたどりついた村は、白い服を着た人々が全て倒れている。あ、惨殺された村?と思わせて、とにかく腹をすかせた男はとにかく食べ物を・・・とひとりから袋を奪おうとするのですが、実は村の人々は「寝たふり」しているだけで、そうしないとダスダランに見つかって殺されちゃう。とにかく寝たふり、寝たふり!!!

「もう、眠るのも大変なんだから」とかぼやいている。そこで出会った美しい女性。

 しかし、その村はダスダランに見つかり、とっとと逃げ出す男。

この男は、英雄でも、正義の味方でもなんでもなく、自分の身があぶないとなるとさっさと逃げ出す。逃げ足だけは速くて馬よりも速いのだった。でも次の村では、物乞いをする人ばかりの村。物乞いから物をとることはないから、とにかく物乞い!

ちょっとありえないけれど、だんだん男は、自分の意思に関係なく、ダスダランに対抗するリーダーにまつりあげられてしまう。

 でも主人公の考えていることは、「おなかすいた・・・」だけだ、というかなり強烈な皮肉ですね。

 つかまった人々が生き埋めにされている墓地で、墓守がりんごを持っていると、周りにたくさん人が生き埋めになっているのに、聞くことは、「りんご、もうひとつある?」

 でも、結局この男はなんだかんだいって巻き込まれながらも、走れメロスみたいになります。

村の人々の愚かな姿、格好悪いヒーロー・・・残虐なダスダラン。とても象徴的なファンタジー映画になっていて、どう意味をくみとるか、という映画ですね。映画は物語だけではないのですが、どうしても物語先行になってしまう中、かなりのブラックなファンタジーを作り上げたというセンスが好きなのです。 

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