叫(さけび)

叫(さけび)

Retribution

2006年11月19日 有楽町 朝日ホールにて(第7回東京フィルメックス)

(2006年:日本:104分:監督 黒沢清)

特別招待作品

 黒沢清監督の映画は人気ありますね。日曜日ということもありますが、満席状態。

ホラーというより迷宮映画のようではありますが、ホラーや迷宮ミステリにありがちな、しつこさが妙に希薄です。

 東京湾岸で起きた女性の殺人事件。海水を飲まされたという手口なのですが、それを調査する刑事・吉岡(役所広司)は、現場の遺留品の中に自分の上着のボタンがあるのを見つける。

そして次々と自分に関係するものが遺留品として見つかるうちに、自分が犯人なのではないか・・・という妄想にとらわれる。

そんな時、吉岡の周りに赤いドレスの女の姿・・・・何も言わずただじっと吉岡を見つめる女の幽霊(葉月里緒奈)が出没しはじめ、吉岡をますます精神的に追い詰める・・・というサスペンスというかホラーというか・・・

 しかしおどろおどろしいこけおどし的な映像は一切排して、むしろ広々としているけれど、どこか冷たいような東京湾岸の風景などがとても透明感あふれています。風景や建物が、静かでいつも透明で、ダークなムードにもなっていないのです。

 幽霊といっても赤い服の女の出現の仕方がかなり唐突ですが、びっくりさせるような出し方をしないのです。

いくらでも『デッド・コースター』的な過激なびっくり演出してもいいのでしょうが、あえてしないのかな、と思いました。

窓の外にでてきた赤い服を着た女が、窓を斜め上にすーと上昇していく様子は、むしろくす、って笑ってしまいました。

怖くないのです。怖いホラーを期待する人は肩すかしをくらうかもしれない。

 

 むしろ、何はともあれ「なにがなんだかわからない」精神状態に追い詰められていく男の心理に重点がおかれています。

東京湾岸という設定は、一度埋め立てられた海が再び現れてもおかしくない風景、つまり死んでしまったものが甦る幽霊とダブらせているのだそうです。死んだ人間が甦る怖さというよりも、なくなった海が再出現する方が不気味だ・・・という感じです。

 幽霊役の葉月里緒奈は、赤一色のドレスを着ているのですが、女の人に白一色とか、赤一色のドレスを着せるという感覚は、自主映画っぽくて初初しい感じがします。

やはり、自主映画出身の矢口靖史監督の『アドレナリン・ドライブ』でもヒロインは赤一色のドレスを着ていたのを思い出します。

 今回、スイスのダニエル・シュミット監督回顧上映で観た『ヴィオランタ』でも、特撮でもなんでもない人間が幽霊となって出てきますが、さすがは・・・と思ったのは、その幽霊は老女ながら白とピンクの絶妙なグラデーションのウェディングドレスを着ているという不気味で美しい出し方をしていたことです。

白一色、赤一色というのは、絵としてポイントになるとは思うのですが、ポイントを強調させるのか、スクリーン全体の調和を考えるのか、の違いなのかなぁ、と頭ぽりぽりかいてしまいました。私にはよくわからないんです。過激ながらも全体の色合いが絶妙の美しさを持っていると思うのは、私の場合、セルゲイ・パラジャーノフ監督であって、絵も描く人でもあったから、その辺の感覚は常人離れしている技なので難しいものだな、と思いました。

 しかし、この映画は意外な謎が出てきて、また意外な結末を迎える、というあたりの間の取り方とかはとてもいいですね。

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