山峡好人(公開タイトル:長江哀歌)

山峡好人(原題)

山峡好人(Still Life)

2006年11月17日 東京国際フォーラムホールCにて(第7回東京フィルメックス オープニング作品)

(2006年:中国:107分:監督 ジャ・ジャンクー)

2006年ヴェネチア国際映画祭 金獅子賞(グランプリ)受賞

 ジャ・ジャンクー監督がこの映画を撮ったきっかけは、舞台となった山峡ダムで働く肉体労働者たちの絵を描く画家についてのドキュメンタリー映画を撮ったことだそうです。

実際に撮影の許可をとって、ダムの工事現場に入っていきます。

そして、ドキュメンタリー映画を撮るうちにストーリー映画を思いついたといいます。

 2000年の歴史がある古都、奉節。国家事業として大々的にダム工事が進められています。

次々と人々は移転し、廃墟となった建物は壊されていき、そしてダムの底に沈む。2000年の歴史が、たったの2年で壊されてしまう。

主人公は、山西省から16年ぶりに妻と娘に会いに来た男、サンミン。

しかし、サンミンが訪れた、かつての家はもう水の底に沈んでいました。妻と娘を探すためにとどまることにしたサンミン。

そして、逆にいなくなった夫を探しに来た女性、シェンホン。

 映画は、「煙草」「酒」「茶」「糖(あめ)」の4章に別れていますが、「人を探してさまよう」2人を通して、建物が壊されていく街、そしてそこで働く労働者たちの姿を静かにクリアに見つめています。

まだまだ街に残っている人たちがどんどん追い出されていく様子。ダム工事で働く男達の肉体、廃墟のような街。

そしてここは、ダムよりも、山水画の風景として観光客が押し寄せる場所でもあり、この風景は壊されることなく生き残る。

いつまでも残る山や河といった風景もある。

そしてここはとても蒸し暑い地方であって、働く男達はほとんどが上半身裸であり、この蒸し暑さがスクリーンから伝わってくるような雰囲気。

 バイオレンス、暴力で破壊されるのではなく、事業として破壊されていく古都。そして時折、UFOが飛んだり、建物がロケットのように空に飛んでいくといった、非現実的な描写も出てきますが、それも不思議と自然に映ります。

 監督の「じっと物を見つめる、凝視する」といった姿勢がよくわかるスタンスの取り方が絶妙です。

別に声高に反対を訴えるのではなく、じっと見つめるその視線の先にあるのは、なくなるものとなくならないもの、という静物、風景なのです。

2000年の歴史が2年という期間で消滅してしまうことに対しての憤りというのは感じられません。

私はこの映画は風景の映画だと思うのですが、同時に肉体労働者たちへの尊敬の目もあるような気がします。

気の荒い労働者たちではありますが、何を考えて、家や建物を壊しているのだろう。

ダムができて残るものは何だろう。生きている街と死んでいく街。

新旧交代の流れが急な中国の様子ともとれますが、監督の「じっと見つめる目」というのがとても印象的です。 

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