暗いところで待ち合わせ

暗いところで待ち合わせ

2006年12月8日 シネスイッチ銀座にて

(2006年:日本:129分:監督 天願大介)

 この映画は、とても気になっていました。

理由① 原作が乙一:乙一の本は今年、よく読んでいてこの原作も読んでいました。「せつなさの達人」という名称があるそうですけれど、ちょっと乙一を「せつない」の一言でくくってしまうのはどうかと思います。しかし、乙一の描く世界というのは「ひとりでなんとかする」というものが多くて、孤独で寂しくて、でもほっとすることがあって・・・というのが「せつない」となったのかと思います。

理由② 監督が天願大介:天願監督は今村昌平監督の息子さんであると同時に林海象監督とのつながりも深いです。

林海象監督プロデュースのアジア6カ国プロジェクト、「ASIAN BEAT」の日本編『アイ・ラブ・ニッポン』の監督で私はこの映画がとても好きです。また、濱マイクシリーズの共同脚本などもしていて、前作は『AIKI』

理由③ 音楽がめいな Co.:林海象監督の映画のほとんどの音楽を担当しています。また、他の映画でも軽妙な邪魔にならない音楽作りがとても上手いので音楽 めいなCo.だとそれだけで嬉しくなってしまうのです。

理由④ 主演 田中麗奈とチェン・ボーリン:この2人は今年、台湾映画の『幻遊伝』で共演しています。『幻遊伝』では、田中麗奈が台湾に行き、元気な女の子を演じ、チェン・ボーリンは、現代と昔の青年2役やっていました。

チェン・ボーリンの活躍は、台湾、香港、日本と実に幅広いです。今年では『THE EYE3』のちょっと笑える明るい青年、『シュガー&スパイス』の夏木マリの愛人役が印象的。

 という訳で私はイソイソと観に行きました。

目の見えない一人暮らしの女性、ミチル(田中麗奈)。父を亡くして家からほとんど出ることなく、かといってひとりを悲観するでなく暮らしています。

 ミチルの家は線路沿いで駅が見えます。そこでおきたある男のホームからの墜落事故。

容疑者の大石アキヒロ(チェン・ボーリン)は、中国人と日本人のハーフであるため、職場の印刷工場でも人間つきあいができず、何かと年上の男、松永(佐藤浩市)に嫌がらせを受けている。兄貴肌の松永の子分のようになっている同僚たち。アキヒロは黙々と働いているけれど、内心、不満と怒りでいっぱい。ホームで見かけた松永の姿・・・・突き落とそうか・・・そんな衝動がアキヒロに起きる。

 逃げてきたアキヒロは、ミチルの家に飛び込む。すると出てきたミチルは目が見えない、とわかったアキヒロはこっそり家の中に入ってしまうのです。何も見えないミチルはアキヒロの存在に気づかず・・・そしてミチルとアキヒロの不思議な共同生活の始まりです。

 ミチルは家の中ならば、杖もなく歩ける。そんなミチルを避けながら、息をひそめて部屋の隅に座るアキヒロ。

アキヒロは「本当はいるけれども、いないはずの存在」

言葉を交わすことなく2人は同じ部屋にいる。こたつに丸くなるミチル。その部屋の隅で黙って座っているアキヒロ。

 ミチルの家の中のシーンがとても多いのですが、言葉を交わさない2人のたたずまいがいいです。2人共、世間とは上手くやっていけない「ひとり同士」ひとりとひとりがいても、ふたりにはならないという不思議な状況。

職場でもアパートでも、母を中国においてきてしまっているアキヒロにはだんだん、ミチルの家が居心地よくなってくる。

反面、さすがにミチルも、どうも家の中の様子が違うようだ・・・とうすうす感じはじめる。

ミチルは、外の世界に対しては恐れを抱いていますが、家の中では安心しきっている。そんな安心の様子に不安でいっぱいのアキヒロがそまっていくような・・・そんな2人の心理の動きがとても細やか。

 ミチルは、友人のカズエ(宮地真緒)しか頼る人がいない。カズエはどんどん外に出ろ、とつっつくけれどなかなか勇気が出ない。

 天願大介監督は前作『AIKI』で、事故で車椅子になってしまった青年が合気道に目覚める姿を描き、『アイ・ラブ・ニッポン』では、日本で働く外国人の姿を描いていて、障害者と外国人、という要素はこれが初めてではありません。

つまり強い者よりも、立場の弱い者を描く、ということが上手い人だし、そういう要素に興味があるのでしょう。

原作では、アキヒロは日本人である所を、映画では変えています。

 強い者は、弱い者を駆逐することがある。いじめる、疎外することがある。

かといって、弱い者を可哀想、とは決して描かない。この映画では、真相は何?という要素もあるのですが、やはりミチルとアキヒロの2人がどうなるのか、という所が丁寧に描かれていると思いました。

 明るい、軽い青年の役から、今回の影を背負った息を潜めているような寡黙な演技もきちんと器用にこなすチェン・ボーリンと、目が見えないけれど、弱さを見せない赦しの存在感を持つ田中麗奈。この2人はとても綺麗です。

点字をなぞるときの田中麗奈の指や、動かない黒い瞳などもとても綺麗。

 タイトルの暗いところで待ち合わせ、というのがまた、雰囲気がよく出ているいいタイトルです。

待ち合わせってことは、いつかは、会う時がくるということでもありますしね。

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