麦の穂をゆらす風
The Wind That Shakes the Barley
2006年12月6日 シネカノン有楽町にて
(2006年:アイルランド=イギリス=ドイツ=イタリア=スペイン:124分:監督 ケン・ローチ)
第59回カンヌ国際映画祭 パルムドール(大賞)受賞
昔、韓国へ旅行したとき、道がわからくて困っていた時に、70代くらいの男性が日本語で話しかけてきて、道を教えてくれました。
「子供の時は日本語だったから・・・」とぽつりと言った一言で、日本が韓国を占領していたときに日本語を強要していた事実を目の当たりにしたような気持になりました。
この映画は、イギリスによりアイルランドが占領されていた時代、1920年アイルランド独立戦争から内乱へいたる課程を、政治家や軍人でなく市井の人々を中心に描いたものです。
冒頭、いきなりイギリス軍に詰問されるアイルランド人の若者たちは、名前を言え、と言われてゲール語で「ミホール」と名乗った青年が、英語の名前だ、英語で言え!と命令されても「マイケル」とは言わず「ミホール」と言い張ったために・・・悲劇というのが描かれます。
主人公はキリアン・マーフィ演じるダミアンですけれど、私が主役!という出しゃばり方はしない(させない)のです。
ダミアンは医者を目指し、ロンドンの病院に勤務が決まったけれども、アイルランド独立戦争に参加する。
戦争に参加する、といっても軍隊があるわけでなく、民間人が銃を手に戦うのです。(これが後のIRAになる)
イギリスにしたら立派な「テロリスト」
今、世界がテロやテロリストにピリピリしている時代に、堂々と「テロリスト側からの戦争」を描いたのか、また、イギリス人であるケン・ローチ監督は、何故わざわざ「アイルランドよりの反英映画なぞ作ったのか」と大変な論議になったらしいです。
でも、私はあえて、地雷を踏んでみせるようなこの映画に、単なる「一国の歴史」だけでなく、今の世界に問いかけるものをもたせる、厳格さというものを感じました。
全体を透明感のある映像で通しながらも、独立戦争から、条約締結・・・それに対する内乱という悪夢のような歴史、何度も何度も繰り返されてなくなることのない悲劇の悪循環を、ひとつの舞台を例にとって示したようなものです。
この映画では、とにかく英国が敵。条約締結してもそれはあくまでも英国主導のものであり、完全な独立とは言えない。
その為、味方として英国と戦ってきた若者たちが、今度は敵味方になってしまう・・・という悲劇を、悲惨なだけでなく美しく描き出し、悲しく、厳格に見つめている姿が、大変知性あると思うのです。
もちろん、家族や恋人なども出てきますが、戦争は家族や恋人に悲しい思いをさせる、だけでなく、若者たちが「自分たちの国はどうあるべきか」と常に考えて、行動をとる姿に焦点をあてています。
単なる勧善懲悪の世界など現実にはない・・・そんな厳しい現実をつきつけてみせる・・・世の中にはこういう厳格な重みのある映画は必要だと思います
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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