犬神家の一族
2006年12月1日 虎ノ門 イイノホールにて(試写会)
(2006年:日本:134分:監督 市川崑)
角川映画30周年記念映画だそうです。
考えてみれば、角川映画はどんどん横溝正史の原作ミステリを大作映画化して、それが当然だったようにヒットしたのは随分昔です。
30年ぶりに同じ、監督、監督市川崑、金田一耕助役、石坂浩二で、リメイク。
横溝正史の世界は美学の世界です。だから殺人といっても、社会的な背景よりも個人的な背景での、美学を持った殺人の謎という謎解きの世界なんですね。
だから、横溝正史の描く世界はちょっと世間離れした大富豪だとか、孤島の一族だとかそんな設定です。
30年前の観客と今の観客は同じ価値観ではないから、その辺もよく考えているのだと思います。
昭和22年、信州の那須の犬神一族の遺産相続争い。
過去の戦争で莫大な資産を作った犬神佐兵衛(仲代達也)が、遺言状で遺産を残したのは3人の娘たち(長女、富司純子、次女、松坂慶子)、三女、萬田久子)ではなく、恩人の孫娘、珠世(松嶋菜々子)であったことから大変な騒ぎになる。
しかし、珠世が相続する条件とは、3人の娘の息子、3人のひとりと結婚することです。
しかし、そんな矢先、長女、松子(富司純子)の一人息子、佐清(すけきよ)が戦争から戻ってきた・・・しかし、佐清は戦地で顔面を怪我したということで、頭をすっぽり隠したマスクでした。
珠世と結婚できた息子の一族が正式な遺産相続権を持つことから壮絶な殺人事件が起きてしまうのです。
しかも佐清は顔がわからず、誰もが本当に佐清本人なのか、と疑心暗鬼。
この殺人は「見立て殺人」というものですね。ただ殺すだけではなく、あるものになぞらえて、殺されているのが発見される。
最近の映画では、社会的な理由から殺人・・・というものが多い中で、個人の欲ゆえの殺人がいかに謎を深めていくか・・・を翻弄させるような「見立て」が次々と出てくるところは横溝正史ならではの世界。
また、那須の湖のほとりに立つ大邸宅の中をカメラは安定した動きで見せます。
そして、三人の娘たちはそれぞれ母が違う異母姉妹なのですが、松子、竹子、梅子・・・この3人の女優の演技合戦みたいな所が凄いです。
それぞれ夫がいるけれども、もう、ばりばりに欲の皮をつっぱらせて、争そいあうこの3人の大女優さん。
富司純子の人を寄せ付けない冷徹さ、欲丸出しの松坂慶子、欲にかられているけれども姉2人の出方をはかっているような萬田久子。
3人の「欲演技」ってのが壮絶ですなー。
前作と同じ配役なのは、金田一耕助だけでなく、警察の橘署長の加藤武とか神社の神官、大滝秀治などですが、30年たっても同じ役が出来るってことも凄いですね。
原作の金田一耕助はもう少し若い設定なのですが、そこは万年青年の石坂浩二の強み。若いような年とっているような、素性のわからない、探偵像というのはより安定していうような。
昔の推理小説の「探偵」というのは、イコール大人です。今の30代、40代とは違う。
金田一耕助が出る前の横溝正史の探偵といえば、由利先生なのですが、40代となっていても今の40代とは随分違いますね。
そういった時代による大人の違いってものがありながら、この映画はきちんと大人の世界でやっているのです。
若い女性の役では、奥菜恵が意外と奮闘していました。錯乱する松坂慶子に蹴飛ばされて障子ごとふっとんでしまうのです。
昔も今も遺産といえば、男子が継承する中で、珠世という女性に託された遺産。ひとり無視された女の子、という一番可哀想なのは奥菜恵のように思えました。
そして、この殺人事件の犯人は?よりも、こんな厄介な遺言状残した佐兵衛ってのが、悲劇のもとで、そこがいかにも横溝らしく、映画もその世界に忠実に美しい惨劇を描いていますね。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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