みえない雲

みえない雲

Die Wolke/The Cloud

2006年1月10日 シネカノン有楽町にて

(2006年:ドイツ:103分:監督 グレゴール・シュニッツラー)

 シュニッツラー監督の前作(映画第一作目)の『レボルーション6』がとても好きなので、ちょっと注目していました。

この映画の原作は、チェルノブイリ原発事故の後に発表され、ベストセラーとなったそうです。

監督が、何故、チェルノブイリ原発事故直後にすぐ映画化しなかったか・・・という事に関して、「今、世界が変わってきて、核実験、核廃棄のせいで戦争が起きたりしているからこそ、この映画を作りたい」といった事を話されていました。

『レボルーション6』も、かつてテロ活動をしていた人たちのどたばたを描きながらも、どこか政治への意識というのが感じられたのですが、今回は原発事故を扱っています。

 日本は、原子爆弾を落とされた過去を持っています。

しかし、原子力発電所というものは日本にもある。そして、強力な資源としての核というものは、案外、安心している部分が多いのではないでしょうか。

この映画もドイツの田舎の原発のある村が舞台です。

冒頭、主人公のハンナが友だちと学校に行く前に、川で泳ごう・・・なんて微笑ましく、のびのびとした綺麗な風景が出てきます。

彼女たちにあるのは、「田舎はいや・・・都会に出るとか、外国に行くとか・・・」といった事で、原発の事などひとつも出てきません。

高校3年生らしい、進学への希望や期待・・・といったものが強調されています。

 そしてハンナが出合った、ちょっと影のあるエルマーという勉強の出来る、お金持の転校生。

最初はハンナとエルマーがお互い意識しあって、でもなんとなく近づけなくて・・・というハイスクールものです。

 しかし、試験の最中、エルマーから告白されたハンナ・・・その時、警報が鳴る。

この映画はハリウッドのパニック映画とは違います。

普通に試験をしている高校の教室に警報が鳴る。その警報は、最初は深刻にならないけれど、エルマーが「ABC警報だったら、12秒間の間があくはず」と言ったとたん、時計にアップ。針がちくたくちくたく・・・・12秒で警報・・・とたんに、学校はパニックになる・・・こういった緊迫感の見せ方とかとても流れるように危機感を出しています。

派手な特撮などないけれど、時計の秒針が動くだけで、こんなにドキドキするとは。

 さて、パニックは学校だけでなく、原発の近くの村や街から逃げ出そうとする人たちで、道路も駅もパニック。

逃げ遅れてしまったハンナと幼い弟のウリー。エルマーもハンナとすれ違ってしまう。

 のどかな風景の向こうに黒い雲があらわれ、稲光が見える。それがだんだん近づいてきて・・・・黒い雨。

行く当てをなくしたハンナは、1人、放射能の雨に打たれる。

 このハンナを演じたパウラ・カレンベルクという女の子の演技が凄い。

18歳らしい、ぷっくりとした健康そうな体つき。若さあふれる感じがいいのですが、被爆してからの「病を背負った演技」というのが、前半、健康そのもので、イキイキとしていたので、後半の演技が真に迫ってみえます。

また、エルマーを演じたフランツ・ディングの影のある、ちょっと大人びた風情がとてもいいです。

 エルマーは決して、ハンナをあきらめない。『世界の中心で愛をさけぶ。』の主人公、サクはひたすら見守るだけですが、エルマーは、ハンナが自分の事を知って、離れようとしてもあきらめない。

行動で、その誠意を示すのです。ただのお金持のお坊ちゃんだけではなかった、という事が後半たたみかけるように出てくる訳ですけれど、ハンナとエルマーは、失望や病の不安と戦いながらも、どんどんその絆が深まっていくのをまた、流れるように見せます。

純愛というより、絆といった方が私は合っているような気がするのですが、ハンナの病に屈しない態度、エルマーのあきらめない態度。

それが、いやらしくなく、かといって嘘くさくもなく、この若い2人の演技って大したものだと思います。

 重いテーマを扱っているのですが、人間の弱さと強さに焦点をあてた、恋愛もの、というのが一番全面に出てきていると思います。

だから、観ていて気が滅入るような事はなく、ドラマとして、そして現実として・・・身にしみるような思いになるのです。 

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