愛されるために、ここにいる

愛されるために、ここにいる

Je ne suis pas la pour etre aime

2007年1月17日 渋谷 ユーロスペースにて

(2005年:フランス:93分:監督 ステファヌ・プリゼ)

 フランスではこの映画は「小さな宝石」と呼ばれたそうですが、本当にそういう映画。

 50代の執行官、ジャン=クロード(パトリック・シェネ)は、淡々と仕事をこなす日々を送っている。

そんな時、健康の為に・・・と始めたダンス教室のタンゴレッスン。

そこで昔の知合いの女性、フランソワーズ(アンヌ・コンシニ)と久々に出合う。

お堅い、表情の固いジャン=クロードに親しく、話しかけてくるフランソワーズ。

老人ホームに入っている父は、気難しく扱いにくい。親しみなんて感じない。

自分の事務所に入れた息子は軟弱でやる気があるんだか、ないんだか・・・情けない。

妻とは離婚している。

家族・・・というものから一切、身を引いて暮らしているジャン=クロードの前に現われた笑顔が可愛らしい、目尻のシワがキュートな女性。

 ジャン=クロードは無愛想で気の利いた会話など出来ない。でもフランソワーズは、実は結婚を目前にしているのだけれど若い婚約者が自分本位なのが、情けなく、父のようなジャン=クロードを慕う。

 慕うが恋するなのか?という微妙な所を、ぎこちない少ない会話と無表情で、じんわりと見せてくれます。

「シャル・ウィ・ダンス」のように、ダンスの上達、華々しい世界などなく、あくまでもレッスン場でぎこちないステップを踏む2人。

描いている素材は似ているかもしれないけれど、描いている世界は全く違うのです。

しかし、ダンスの話が出来るようになるとなんだか2人の心が暖まるような気分がスクリーンから立ち上る。

少しずつ・・・2人の距離が近くなったり、立ち止まったり・・・そんな50男の恋のときめきを静かに描いた大人の映画。

 自分は恋をしているっ!と自覚できるのは、私としては羨ましい限りなんですけれど、この映画のジャン=クロードのように「自分は恋をしているのか?していいのか?」と戸惑う・・・またフランソワーズも結婚式で踊る為にレッスンに来ているのに、婚約者は自分の事ばかり・・・家族は見栄ばかり・・・で心細くなってきた所へ、するりと入ってきた「何も言わない大人の男」に親しみと思慕のような曖昧な気持にゆれる・・・というのがとても丁寧なんですね。

 フランソワーズと出合った事で自分の気難しい父も情けない息子もちょっと違った目で見ることになる。

最後に2人が無言でかわす小さな微笑み・・・・それがこの映画の宝石なのだと思います。

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