市川崑物語
2007年1月24日 新宿ガーデンシネマにて
(2006年:日本:86分:監督 岩井俊二)
市川崑監督のドキュメンタリーですが、今までのドキュメンタリーとは違う手法がとても興味深いです。
私は、このドキュメンタリーを監督した岩井俊二監督と同じ年です。(そこのあなた・・・調べて、わざわざ年齢を探らないように・・・)
一番、面白かったのは、「岩井俊二監督が、市川崑映画と出合った年齢が私と全く一緒だった」という事なんです。
つまり、角川映画の『犬神家の一族』に中学生の時出合って、衝撃を受けた・・・という所です。
映画に限らず、本にしても、音楽にしても・・「何歳の時に出合ったか」で、その影響は大きく違います。
このドキュメンタリーでは、後半、岩井俊二監督が市川崑映画に出合ってから・・・がとたんに、プライベート、ワタクシ的なものにがらりと変わるのです。
やはり、映画始まって画面一杯のいきなりの大きな字・・・それもクロスワードのようにタテとヨコを組み合わせた大きな字のクレジットタイトルにがが~~~んと衝撃を受けたのだな、と私はヒヒヒと笑うのです。
しかしさすがだなぁ、と思ったのは、「殺人現場の衝撃よりも、驚いたのは発見した石坂浩二演じる金田一耕助の顔が見事にピンぼけだったのが怖くて・・・あれは、わざとやったのか、偶然だったのか・・・」というもの。そこまでは覚えていませんでしたが、映画少年だった中学生の岩井少年は見る所が違う。
この映画には、ナレーションもなければ、市川崑監督の肉声というのも出しません。映像もモノクロでおさえています。
静かなピアノ音楽が流れるだけです。
黒い画面に、タテにヨコに・・・・言葉が浮かび上がる。岩井俊二監督は『犬神家の一族』のクレジットタイトルにこだわっていますね。
そして、過去の市川崑映画を後追いする事になったと思うのですが、「女性的、中性的というのではなく、性的」とタテに文字が出て、「むずむず」とヨコに文字が出るあたりのタイミングなんて、文字を映像としてとらえるセンスを感じるのです。
前半は、市川崑監督が、最初、ディズニーのアニメーションに惹かれて、東宝の前身である撮影所に入り、アニメーション製作にたずさわっていたこと。だから、今も監督しているとき、履いているスリッパはミッキー・マウス・・・
そして脚本を多く担当した、妻である和田夏十さんのこと。
それを再現映像と資料映像を使い分けています。やはり大正生まれの今年92歳になると波瀾万丈です。それだけでも面白いのですが、あくまでも語り口は静かに、タテにヨコに文字が浮かんでは消える・・・という、シンプルなようで、凝った手法を用いています。
文字が映画の中で、重要な役目をはたす、というのはかつて『リリィ・シュシュのすべて』でネットの掲示板の書き込みの文字が浮かんだり、消えたりしたのを思い出します。
私の好きなエピソード。市川崑監督が「太宰君は、女好きでね」「え、太宰君ってあの太宰ですか?」「原作を映画化したときに助監督してて、女優さんのお世話していたのだけれども、太宰君は夜になると女優さんに夜這いかけようとするんだね。それを、駄目です、駄目です、って止めていたんだよ」
そして岩井俊二監督の映画を観た監督は、「君の映画は逆光の映画だね」と看破し、それから照明について話し込む2人。
「年齢なんて関係ない。
僕はこの世の中で一番
話の合う人と出会ってしまった。
そんな気がした。」
尊敬という気持を、見事にスクリーンに投影させた岩井俊二監督なのでした。それはキリキリしていなくて心地よいものでした。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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