赤い鯨と白い蛇

赤い鯨と白い蛇

2007年1月25日 神保町 岩波ホールにて

(2005年:日本:102分:監督 せんぼんよしこ)

 この映画は、「家」の映画だと思います。

登場人物は5人の女性なのですが、全てが千葉・館山にある古い大きな家に縁のある人々です。

玄関から飛び石があって、中は広い畳の間が障子で仕切られている。

障子をはずせば、広々とした畳の間で、その周りを廊下がぐるっとあり、庭が見通せる。

夏は風の通りが良さそうで・・・冬は暖かそうで・・・そんな日本の古い家屋の魅力。

庭には離れがあって、蔵には古いものがひっそりとおさめられている。

そして温暖な館山の気候。穏やかではあるけれど、言い方変えれば、無風の退屈な所。

 70代の保世(香川京子)が孫の明美(宮地真緒)と一緒に千葉の千倉に向かう所から映画は始まります。

途中の館山で、子供の頃過ごしていた家が見たいと急に言い出す祖母に、しぶしぶついていく孫。

そしてその家は取り壊し寸前で、住人の母子、光子と里香(浅田美代子と坂野真理)と出合う。

ちょっと立ち寄るつもりが、保世は、泊まりたい・・・と言い出す。困惑する孫に反して、嫌な顔ひとつしないで快く迎え入れる光子。

その夜、前の住人だった、という美土里(樹木希林)が、突然現われる。

 5人の女性はそれぞれ「ハッキリと言いたくないもの」を持っている。そのぶつかり合いを5人の女優さんだけでやって、男優を一切排してしまった潔さがいいです。

 うさんくさいサプリメント販売をしているという美土里を演じた樹木希林の「うさんくさ」炸裂がすごいですね。

若い宮地真緒に向かって「アンタ、どう見たって・・・30でしょ」とか言い出すし、家を出て行ってしまった夫に悩む、光子にも「あんたのその生真面目な性格が息苦しいんじゃないの?」とか、ズケズケズバズバ言う、そのタイミングが絶妙な「嫌なおばさん」なのです。

宮地真緒は、元気なようでいても、見栄っぱりで、彼氏との事も「好きなんでしょう?」と聞かれれば「う~ん、好きっていうか、一緒にいると便利って言うか・・・」、そこに「そんな男は駄目だね、駄目」とドツボに落とすような事を言う樹木希林。

そんな自分勝手街道まっしぐらな樹木希林が、自分勝手ながらも、保世の「さがしもの」につきあってしまうところなんか、なんとも言えない味があります。まぁ、最後の最後まで自分勝手な人なんだけれども、それなりにやることはやっているのだ、という存在感の出し方が、もう、上手い。

 いくつになってもお嬢様みたいな香川京子、うさんくさい樹木希林、生真面目な浅田美代子、さばさばしている宮地真緒、あどけない坂野真理・・・5人の会話劇といってもいいのですが、その底にあるものは、「忘れてしまうこと」「忘れなければならないこと」「忘れてはいけないこと」

 もう70代の保世は認知症の兆しがあって、薬を飲んでいる。「忘れてはいけないこと」があるのに「忘れてしまう」という自覚が、不安になっているのに孫には穏やかにやさしいのです。

 小学生の女の子の里香も、最初は子役子役した子供なのかなぁ、と思ったら、スキップしながら急にくるりと後をむいてうしろスキップなんてやるのが、いいですね。大人たちがあれこれ話をしている時に畳の縁をつつつ・・・とか歩いている。

 家には150歳の白い蛇がいて、その蛇と話をすると幸せになると保世は言うけれど、それを信じるのは一番幼い里香だけです。

海辺で見た赤い鯨と、家にいる白い蛇・・・そんなものはもういない世の中なのかもしれないけれど、この映画は「いる」と静かに語りかけてくる映画です。 

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