ヘンダーソン夫人の贈り物

ヘンダーソン夫人の贈り物

Mrs Henderson Presents

2007年2月12日 渋谷 ル・シネマにて

(2005年:イギリス:103分:監督 スティーブン・フリアーズ)

 劇団第三舞台を主催されている鴻上尚史さんがエッセイで、「もし、どうしても、あなたが貧乏になりたいなら、劇団をひとつ作りなさい。すぐに貧乏になれます」といった事を書かれていました。

 この映画のヘンダーソン夫人は、莫大な遺産を夫から継いでしまって、どうしたらいいのかしら?なんて最初言うんですね。

お友だちの金持軍人未亡人(この人がかわいいようなしたたかさで良かったですね)「まずは、刺繍ね。それから慈善事業・・・お金は余っているから・・・若いツバメを飼うのもいいわね。うふふ~」なんて言うんです。

 そこで一応、刺繍も慈善事業もやってみるけど・・・駄目だわっと思った矢先に、つぶれて売りに出された劇場、ウィンドミル劇場を見かけ、その場でお買いあげです。

「なんでも金使えるって言ったでしょ。わたし、劇場を買ったのよ」なんてお友だちに言う、ヘンダーソン夫人を演じたジュディ・ディンチが、身分は高いし、金持だし、でも、ちょっとしたおてんば娘というのがずっと続くのがいいのですよ。

 しかし、一体どう具体的に運営するか、で雇われ支配人のヴァンダムという中年男(ボブ・ホスキンス)が雇われるのですが、この2人、最初から上手くいかない。ヴァンダムがオランダ系ユダヤ人だ、というのもヘンダーソン夫人の気にいらない所でもあるというのは、イギリスの階級社会の偏見などが上手く出ていましたね。

 しかし、この2人はなんだかんだいいながらも、二人三脚でウィンドミル劇場を盛り立てていく。

ヘンダーソン夫人とヴァンダムのいい歳した大人同士の子供じみた言い争いのやりとりが、なんとも笑ってしまうのですね。

最初の企画があたったものの、すぐに他の劇場が真似をして閑古鳥・・・「一財産分の損失ですな」と言われても、ヘンダーソン夫人は、ふん、痛くもかゆくもないわっ。そこら辺の平気顔が堂々と決まるのはさすがジュディ・ディンチです。

 そして次に打ち立てたのが、裸の女性を舞台に出す・・・つまりヌードショー。パリでもこんなこと平気じゃないの・・・・と言ってもイギリスの検閲はお堅い。裸を見せるなんてなんてことですかっ!・・・しかし、ヘンダーソン夫人は、偉い人なんか平気です。

だって、鼻水たらしていたあの「トミー」でしょ?大丈夫よ。エサあげてくるから。さすがの検閲官もヘンダーソン夫人には、強く言えず、「美術館の絵画のように動かなければ許す」という・・・そして、第二次世界大戦の勃発。でもヘンダーソン夫人は、劇場のレビューを続けるのです。

 ヘンダーソン夫人はただ、お金持のお嬢様未亡人ですか、というとそんなことはない。色々な経験を積んだなかなかのやり手です。

そして、いつも強気だけれども、何かあったときは、誰に甘えることなく森の中の川でひとりボートを漕ぐ。その時だけが、ヘンダーソン夫人は思いっきり弱気になれるのです。

ずっとヘンダーソン夫人の強さというのが、貫かれている訳ですけれども、その強さの裏にあるもは何なのか・・・それを、喧嘩しながらも、ヴァンダムが理解していき、戦争で劇場閉鎖・・・と命令が出ても、突っぱねる、私は続ける!という強さの出し方のメリハリがとても上手い映画です。

 ヘンダーソン夫人は、威張っているわけではなく、レビューに出る娘たちを可愛がる。皆、戦争で仕事をなくして、裸になるとしてもここで働くしかないのを、ヘンダーソン夫人は、まるで自分の娘のように、空襲がひどくなれば劇場にかくまう。

ヴァンダムはオランダにいる家族が、ドイツのユダヤ人迫害にあっていても、レビューを続けるのを、ヘンダーソン夫人は黙って応援する。

 ただの金持の道楽ではない、筋の通し方を持った女性というのをジュディ・ディンチが、時に高慢、時に頼もしく、かわいらしく、演じていました。

これは実話だそうですけれど、ヘンダーソン夫人は戦争の終結を待たずに亡くなり、すべてをヴァンダムに譲ったといいます。

2人の信頼関係が築かれていくのを、山あり谷ありで、観ていてしみじみ涙が出たり、笑ってしまったり、ほのぼのしたり、胸が熱くなったり・・・みつめる映画と言ってもいいかもしれません。

ただの甘いイギリス上流階級ものではない映画です。

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