フリージア

フリージア

2007年2月27日 渋谷 アミューズCQNにて

(2006年:日本:103分:監督 熊切和嘉)

 『アンテナ』の熊切和嘉監督が、漫画が原作の映画を撮るというのは、どうなるのか・・・ととても興味を持っていました。

しかし、描いている世界は違っていても、スクリーンにうつしだされる映像は、暗く、深く、重厚でノワールのじっとりするような重さがあり、映像を堪能する映画です。

 設定は漫画とはいえ実に破天荒。

近未来の戦争下の日本。敵討ち法という事件の被害者に代って、敵討ち代理人が加害者を見つけ出し、処刑することが許されている世界です。

 色々と説明の必要な設定なのかもしれませんが、そこを言葉でなく映像でみせてしまう力にひきこまれます。

敵討ち代理人事務所の経営者、ヒグチマリコ(つぐみ)。そこに雇われているのが、執行代理人、叶(玉山鉄二)、山田(柄本祐)、溝口(三浦誠巳)、岩鶴(嶋田久作)。

この4人の個性が際だっていました。服装からして、玉山鉄二(無表情)はいつも青い革ジャン、柄本祐(若くて正義感)はサラリーマンのような背広、三浦誠巳(ヤクザ)は派手なパンクファッション、嶋田久作(弱気、未経験)は落ちぶれた浮浪者風・・・・とキャラクターの色のつけ方が上手いのです。

 敵討ち執行というのが、加害者の住居のあたりを住民を避難させて、殺し合うのです。

サバイバルゲームのような感覚です。そのターゲットになるひとりが鴻上尚史が演じていたりしますが、裁判の弁護人と同じく加害者にも、警護人というのがついて、お互い、殺すか殺されるか・・・の死闘をくりひろげる。

 叶は無表情だけれども、その腕は見事。それは過去に日本軍が行ったフェンリル計画に荷担していたせいなのですが、ヒグチマリコが請け負った仕事に、殺す相手が、そのフェンリル計画で一緒だった男、岩崎(西島秀俊)になり2人は再会そして対決。

岩崎は、今はひっそりと身を潜めているような生活で、敵討ちの対象のような凶暴性はなく、そこら辺、西島秀俊をキャスティングしたというのがいいですね。

 完全に甘さというものを排し、余計な説明を省き、湿っぽい感情など描かず、シビアにクールにガン・エフェクトを見せる。

その厳しさがびしびし伝わってくるような、深い色合いの静かな映像。

やっていることはすごいけれど、その映像のせいで、いつも映画は静か・・・という印象を受けます。

暗い、とひとことではいいきれない落ち着きが全編を貫いているのがとてもいい。

戦争下の日本では、街に軍隊が常にいて、暴動が起きている。しかし、感情を一切顔に出さない叶を演じた玉山鉄二は、ひたすらハードボイルドにクールで、食事をしていている時に外で暴動が起きていても、動じない。

 この何事にも動じない叶という青年が、中心にあって様々なキャラクターが動くのをじっくり見せる。

ただの殺し合いではない、理由があっての殺し合い。描きようによっては陳腐だったり、ふざけていたり、みせびらかす派手な世界になりそうな所を、どっしりと腰をすえているという芯が、あまりにも太く、強く貫かれていて、それが半端ではないので、原作が漫画とはいえ、見事な映像世界になっていて、見応えのある映画になっていました。

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