足にさわった女

足にさわった女

2007年2月27日 京橋 東京国立近代美術館フィルムセンターにて(シリーズ・日本の撮影監督(2)

(1952年:日本:84分:監督 市川崑)

 先日、岩井俊二監督のドキュメンタリー映画『市川崑物語』を観て、にわかに市川崑監督、そして脚本、和田夏十(市川崑監督夫人)の映画が観たくなりました。

本当は撮影監督特集なので、ちょっと観る動機が違うかな、と思います。撮影監督は安本淳。

フィルムセンターで、何本か上映されるのでまず、この映画を観たわけですが・・・・市川崑監督の映画に出てくる女性は、気が強くて活発、または妖艶、男性は情けなくおぼっちゃん・・・・という『市川崑物語』の説明がよくわかりました。

 この映画の主人公は3人。女スリの越路吹雪、スリ専門の刑事に池部良、大小説家先生の山村聰。

この3人がひょんなことから、大阪から東京へ向かう列車に乗り合わせて・・・・話はコロコロと転がっていく。

 越路吹雪は、スリ=仕事となると妖艶な美女となり、男性を惑わし、ちゃっかり財布をいただく。その変身ぶりが立派。

池部良は、ちょっと垂れた前髪がとても格好良くてテキパキとして、明朗活発な青年。

そして、山村聰は、「坂々安古」という名前で、恰幅の良い着物姿で、絶妙な女言葉を話すのがとても可笑しい。

今時のオネエ言葉ではなく、昔の映画の母親などが話すような山の手女言葉で文学論なんて気持よくしてみせたりする。

「わたしの名前は、「安古」古い、なの。よく間違われるのよねえ。ふふ、先方さんも困っているらしいけれど」

ちらりと見せる名刺の「坂々安古」が、ちらっと見ると、「坂口安吾」に見えてしまうのですね。

 その他にも、越路吹雪の弟でスリの助けをしているのが伊藤雄之助。

これがぼーっとしていて、「ボク、22さい」なんて言いますが、列車の中で、カモになりそうな人物を見つけると、姉の足にちょっと足をひっかけて知らせるという仕組み。

また、列車の中専門のスリのやり方は、向かいの席に座った人物(男)にちょっと足を触れさせて、それをきっかけとして、美人にぼーっとしているカモに近づいていく・・・というものですね。

 スリ専門の刑事、池部良は、もう、越路吹雪のことはよく知っている。しかし、坂々安古先生は「スリや泥棒が美人なんて、芝居や小説の中だけなのよ」とわかったようなことを言うのに、カチンときた池部良は、「いや、そんなことはありませんよ!」「じゃ、証明してごらんなさい」と言われても・・・・しかし、越路吹雪は巧妙に金持の小説家先生に近づいてくるのでした。

 3人が、とにかくよく喋ります。口論、口ゲンカ、言い訳・・・等々、台詞のやりとりが続くなか、ボーっとしている伊藤雄之助。

テンポよく、ほとんどが列車の車内だけ、という空間で繰り広げられる、だまし、だまされ、の連鎖。

コメディとしてもいいのですが、とてもテンポよく、リズミカルで、今観ても全く古さを感じさせないイキイキとした人物像が、くっきりしていて、わかりやすく、そして、楽しい。

それぞれの言い分が、間違いではないけれど、どんどん脱線していく上手さ。

騙しているつもりが、いつの間にか、騙されている可笑しさ。

そんなものを気持よく観られる映画でした。

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