サン・ジャックへの道

サン・ジャックへの道

Saint Jacques....La Mecque

2007年3月2日 新橋 ヤクルトホールにて(試写会)

(2005年:フランス:112分:監督 コリーヌ・セロー)

 映画にはロード・ムービーというのがあって、今の時代はほとんどが車かもしれません。

しかし、この映画は、フランスからスペインまで、ぶらり1500キロ!!2ヶ月かけてキリスト教の聖地を歩いてめぐる巡礼の旅の話。

車にあるような風景が流れ去って行くというものはありません。

しかし、その巡礼のツアー、ガイドを含めて9人の人間模様がとても巧妙に計算されているので、自然にみえてもかなり練り込まれたストーリーです。

 巡礼のきっかけは、遺産相続。

ある金持未亡人が亡くなった。その遺産を相続するのは2人の息子と1人の娘なのですが、遺言状による遺産相続の条件とは、3人そろって、スペインのサンティアゴ(フランス語でサン・ジャック)までの巡礼をすれば、相続させる、というもの。

会社社長をしているワーカホリックの長男。アルコール依存で、無職の次男、高校の教師をしている長女なのですが、この3人がそりゃまぁ、仲が悪い、悪い。

過去なにがあったかは、語られませんが、とにかく3人は3人共お互いを軽蔑、嫌悪しています、という描写が素晴らしいというほど、念入りに描かれます。

兄弟姉妹は仲がいいもの、というのは理想ですが、現実はどうか、しかも遺産相続になると・・・・日本でもアンケートで遺産相続で身内で、トラブルがあった、という回答が40%というのをテレビで見たことがあります。大人の世界は、そうそう甘ったるいもんではないですよ、と監督はいきなりパンチを出します。コリーヌ・セローという監督は、少しイジワルなのですが、そんなイジワルさがちょっと顔を出します。

 3人とも仕方なく巡礼に参加。他にもアラブ人で、メッカに行くんだ~といいはる男の子2人、その同級生の女の子2人組、ミステリアスな女性、生活のためにガイドしている専門ガイド、合計9人の一行。

最初、3人は喧嘩ばかり、もう他の人はうんざりです。時には、殴り合いまでして一番強いのは娘ですね。

しかも、歩き続ける、ということはとんでもなく疲れること。体は疲れる、荷物は重たい、巡礼だから宿泊所は質素。

不本意で参加した3人は、もう、頭くることばかり。

 そんなゴタゴタを抱えて9人は歩き続ける。そして、その人間関係にだんだん変化が見え始めます。

だんだん、9人がうち解けてきて(仲の悪い3人は除く)、それぞれが歩きながら、色々なペアを組みながら歩き、話をして、一緒に寝食を共にする。

途中に、9人の見る夢がはさまれますが、読み書きが出来ないアラブ人の男の子は、大きなAというアルファベットが追いかけてくる夢だったり、高校教師の娘は、ひとりで家族をのせた荷車をひっぱったり・・・という抽象的な夢ですが、その夢がだんだん道行きにつれて、続きがある、というのが良かったです。

その時々で風景は山だったり、牧草地だったり、教会のある街だったりするのですが、そんな移り変わりにあわせて夢も変わる。

 歩くというシンプルな工程を退屈させることなく、かといって急ぐこともなく、ゆっくりじっくり追う映画のテンポがいいです。

ある教会では、肌の黒い人・・・ガイドとアラブ人の少年2人は宿泊させない、なんて所が出てくると、ヘナヘナ野郎だった長男がいきなり人種差別するのかあ~~~~~!教会だろがあ~~~!と怒りだしだしたり、ゆっくり変わってくる、仲の悪い3人の距離など、俳優さんがいい味出していました。

そして、巡礼には終りがありますが、終りになったらそれで、旅は終りなのか・・・ということをさらりとさせて、それぞれの新しい道を描くところなど、嫌味にならず、安直にならず、着地点をうまく描いていますね。

 何の予備知識もなく見たので、ヨーロッパでは有名なのだろう、巡礼の道がどこからどこまで?ということがわからなかったりしましたが、それがなくても、旅というのは、何かが起きるものなので、十分楽しむことができます。

ラスト近くなって出てくる大きな教会の巨大な香炉を、何人もでロープを使って、ぶんぶん振り回すところなど、興味深かったですね。

最初はバラバラだった9人が、そろって、ウィウィ、ノンノンと意思表示をするようになり・・・そしてその香炉を見上げて、9人揃って首を右に左に・・・なんてところは、とても可愛らしい雰囲気が出ていてとても好きです。全員が揃ってウィウィと言えるまでには時間がかかるのです。

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