江分利満氏の優雅な生活

江分利満氏の優雅な生活

2007年3月5日 DVDにて

(1963年:日本:102分:監督 岡本喜八)

 去年の東京フィルメックスで特集上映された岡本喜八監督。

岡本みね子夫人が、一番観て欲しい映画、と言われていたのがこの映画でした。

時間の都合で観られなかったので、DVDで。

 原作は山口瞳。

自分の私生活を随筆風に描いたサラリーマンものです。江分利満とはEveryman・・・誰でもないけれど、誰もが・・というニュアンスですね。

山口瞳はサントリーの広報部に勤めていたのですが、この映画の江分利満(小林桂樹)も同じ。

そして、小林桂樹の自嘲的な膨大なナレーションと共に描かれる、35歳のひとりのサラリーマンの姿。

 会社でのストレス、家でのストレスにちまちまと悩み、酒を飲んでは人が変わったように大きなことをいう小人物ぶりがテンポ良く。

家族がいて、仕事をして・・・そんな人間関係の中で、生きている誰も同じなんだ・・・ということがとても小気味よく描かれます。

会社が終わって、飲みに行きたいけれど・・・・同僚を誘うタイミングが難しい、なんて所は変わらないですね。

家族も借金だらけになったり羽振りがよくなったり、わがままな父を東野英治郎が演じているのですけれど、困った爺さんだけれども、飄々とした爺さんぶりが良かったです。

 昭和30年代の様子も面白いのですが、やはり監督の戦争への思い・・・というものも描かれます。

自分が戦争に行った記憶、戦争成金だった父、そして若いものへの不満。

 しかし、江分利満はひょんなことから、私小説を書くことになり直木賞をとってしまう。

態度が急変する周りの人々。

調子に乗ってしまう江分利満の姿が、もの悲しいです。

若い者をつかまえて、戦争の話をえんえんとするかと思うと、カルピスは恥ずかしいよ、などと支離滅裂なことを言い続けるあたりの小林桂樹の台詞膨大。そしてそれにつきあわされてしまう会社の若い社員の戸惑いもよくわかりますね。自分のことを喋りたくて仕方ないのが、ゆるんでしまうと周りの迷惑かえりみず暴走してしまうあたり。

サラリーマン哀歌。

 最近の映画に出てくるサラリーマン(またはOL)というのは、こうありたい、といった憧れのヒーロー風のものがありますが、この映画はとにかく等身大の小人物であることが、いいです。

社宅の庭が、となりよりも少し広い・・・そんなことが大きな喜びだったり・・・酒でしか憂さを晴らせないというのが一番笑えるようで、笑えない等身大の人間の姿・・・かもしれません。 

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