松ヶ根乱射事件
2007年3月18日 テアトル新宿にて
(2006年:日本:112分:監督 山下敦弘)
山下敦弘監督というのは、「適温」を描くのが上手いと思うのです。
今回は、雪の多い田舎町が舞台となるのですが、『リンダ・リンダ・リンダ』を観て期待するとその底にある意地悪な人間の気持の適温にびっくりするかもしれません。
特に高いわけでもなく、特に冷たい訳でもない、人間の底にある意地悪の適温。
そう、この映画に出てくる人は、すべて特別な人はいない、特に悪者、特にヒーローはいない田舎の町。
主人公の光太郎(新井浩文)は、警察官でまともな職についているようだけれども、やはり不甲斐ないところは、この映画は「隠さない」
隠した方が、都合のいい事もあるのに、監督はあえて「都合の悪いこと」を連続させて見せます。
まともなのは、唯一、一家の仕事を継いでいる長女だけかもしれません。
光太郎には双子の兄、光(山中崇)がいますが、だらだらと情けない様子。
車で人をぶつけてしまっても隠そうとする、しかし、運悪く、素性のしれない女にぶつけてしまい、その相方の男がヤクザな木村祐一で、光を脅迫する。
金を出せ、住む家を提供しろ、あれをしろ、これをしろ・・・・そんなことを、ぐずぐずとうしろめたく家族に「隠している」様子を「隠さず」見せる。
だから、隣の家の様子をのぞき見してしまったような気持にもなるのですが、この光を演じた山中崇が、姉が怒っているときに、反省してうなだれているようでいて、その顔はニヤニヤ笑っている時の傲慢さ・・・。本当にこいつったら・・・と思うのですが、かといって「正しい人」はいますが?というと、誰も彼もがなんだかなあ~。
狭い町のこと、何かあればすぐに人々の知ることになる息苦しさ、狭さ、そしてそれを平然としてきままに家出している父(三浦友和)の開き直りの図太い無神経さ。
そんな様子が、特別、嫌な事ですよ、という力みなく、これが適温、普通の温度です、と見せてしまう技が、独特の個性であり、独特の空気を持っています。
キャスティングの妙もあるけれど、どいつもこいつも・・・だけど、じゃ、自分はどうなの?ということを見せる映画。
無謀でメチャクチャなようでもヤクザな木村祐一が、光に迫る言葉は、理路整然としていたり、正義の人であるはずの警察官の光太郎の小人物ぶり、時折見せる上目遣いの卑屈さ・・・・観ていて、不快というより、ほお、それで?・・・とつい、隣の家のあれこれを「のぞいている自分」
事件らしい事件は、起きないけれども、タイトルになった乱射事件というのは、「自分のことを棚に上げている観客たち」を監督が、皮肉の銃弾でばんばんばん!と撃っている、そんな気がする、ラストです。
更夜飯店
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