檸檬のころ

檸檬のころ

2007年4月22日 渋谷 シネ・アミューズにて

(2007年:日本:115分:監督 岩田ユキ)

 高校三年生の時、あなたはどうしていましたか?

・・・・と聞かれると、「う~~~ん」と考えこんでしまいます。

若い頃ならともかく、もう○○年も経ってしまうと、10代の頃の気持をすっかり忘れてしまっている自分に気がつきます。

この映画は、そんな等身大の高校三年生たちの姿をみずみずしく切り取ってみせてくれる映画です。

 この映画に出てくる高校生たちは、女の子2人、加代子(榮倉奈々)と白田恵(谷村美月)、男の子3人、西(石田法嗣)、佐々木(柄本佑)そして辻本(林直次郎)で、この5人が一編に描かれるということはありません。

5人のうちの2人にスポットがあたるようになっています。

それがすんなりと、自然に無理なく描かれていて、描き分け・・・という所に感心します。

 野球部の西と佐々木、中学時代からの同級生、西と加代子、つきあうようになる佐々木と加代子、ロックの事で話が合うようになる白田と辻本。5人がいっぺんにがやがや・・・という「仲良しグループ」映画ではないのですね。

 この映画の上手いところは時代のぼかし方です。

意図的に80年代など、決めてしまわずに、今でもあり、昔でもあるような、今も昔も変わらないような・・・・そんな小物の使い方、伏線の張り方が上手いです。

 意識しているけれど、電車の中で一緒になって気まずい空気、つきあったはいいけれど、進学から先は考えていなかったことに気がつく後悔、自分のことを好きになってくれるのかと思ったら友だちで・・・ショック。

 そして、優等生加代子と、ひとりロックにのめりこんでいる女の子、恵との接点の描き方が、恥ずかしいを上手くかわして、さわやか。

この映画はかわすのが上手いとも言えます。

例えば、それぞれの家族というものはほとんど出てきません。家族との葛藤というのも10代のひとつの大きなポイントかもしれませんが、そこはかわしています。

ロックが好きでライターになりたいという恵は、音楽雑誌に投稿する。iPODは出てくるけれど、携帯電話やネットは出てこない。

雑誌に投稿・・・というのは今だったらネットですぐに何でも書ける時代ですが、そういうことは出てきません。

音楽というのは青春に直結しているものですから、なつかしさを強調したければ、なつかしのロックを流せばいい。

しかし、この映画では、何を聞いているのか、は出しません。

 あれも、これも、描こうという欲張りの見えない映画です。

その分、演じる高校生たちの機微というものがクローズアップされるので、若いといっても演技の上手い役者さんを使っています。

真面目で朴訥な石田法嗣、お調子者でも本当は照れ屋の柄本佑、優等生でそつのないようでいて戸惑う榮倉奈々、ちょっとワルな感じの林直次郎・・・演技派、谷村美月。

谷村美月の小さくて細い体で、カチンコチンになってしまう姿や、ちょっとふくれた頬、小さな口、豊かな表情など本当に可愛らしい。

 もう滅多に卒業アルバムを開くことはないのですけれど、卒業アルバムを開いちゃった気分になる映画です。

やたら卒業アルバム開いて、同窓会もたくさんやって・・・という人より、わたしのように、学生時代はすご~く遠くになってしまった人の方がこの映画が新鮮に見えるのかな・・・と思いました。

卒業、ということは、去って忘れていく・・・ということでもある、という直前の一コマを綺麗に切り取って、再構成させて見せることの出来る数少ない映画のひとつ、となりました。

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