フライ・ダディ

フライ・ダディ

Fly, Daddy,Fly

2007年4月29日 シネマート六本木にて

(2006年:韓国:117分:監督 チェ・ジョンテ)

 これは原作が金城一紀で、日本でも映画化されたので、話はもう知っているから観ようかどうか、ちょっと考えたのですが、日本版では岡田准一が演じた役を『王の男』で美しい中性的なコンギルを演じたイ・ジュンギだったので、観てしまいました。

 結果としては、イ・ジュンギも良かったのだけれども、とても感心してしまったのは、娘を乱暴されてもやり返せず、息子ほど歳の差のある喧嘩の強い男の子に弟子入りをする39歳サラリーマン役のイ・ムンシクです。

 日本版では堤真一が演じたこのサラリーマン役ですが、堤真一は、たまたまわたしは映画で見る前に舞台での活躍というのを観ていて、それはもうハードな大舞台の主役を演じていたわけです。

舞台っていうのはとてつもなく体力を使うものですから、映画の演技では情けないサラリーマンを演じていても、「やはり舞台の人だからなぁ」という気持がありました。

 しかし、この映画のチャンガことイ・ムンシクは、背が低くて、ヘビー・スモーカー、風采上がらない、マンションの住宅ローンがあと7年残っているサラリーマン。体型は首がないくらいに体全体はぼよよんとしていて、だらけている。(しかも歯磨きしている歯磨き粉がおなかに垂れているという情けなさ)

 それが娘が乱暴されても泣き寝入り・・・になりたくない、と娘を傷つけた高校生と同じ学校の少年、スンソク(イ・ジュンギ)に仕返ししたい、と弟子入りします。

 ここで、韓国らしいと思ったのは、言葉遣いが「敬語」の厳しい言葉だということです。

日本に比べて、年上への敬語というのは非常に厳しいのに、20歳も年下の男の子に弟子入りする、とまず、「敬語はなしだ」から始まるのですね。日本の大人よりも、この「敬語なし」はプライドが傷つくことだろう・・というくだりがあります。

日本版はひたすら走るという訓練でしたが、この映画では様々な訓練が出てきます。

バスのくだりなどは一緒ですが、ちょっとした遊びがあって好きですね。

それにヒーヒー言う姿を密かに、賭けの対象にしている高校生たち。

 イ・ムンシクは、この映画の為にわざわざ15キロ体重を増やし、映画の撮影と同時進行で体を鍛えていったそうです。

厳しい訓練の結果・・・見事な筋肉になりますが、それは本物でした。

しかし、体は鍛えて、ボクシングも習って、いざ、仕返し・・・となってもやはり顔に良く言えばいいひと、逆に言うと頼りなさ・・・が滲みでているのがリアルです。

この映画はとてもリアリティを尊重しています。

イ・ジュンギは、『王の男』とはうってかわって、顔に傷のある、喧嘩の強い孤高で冷酷な師匠ぶりを発揮するのですが、体の動きが直線的にスッとしていて、とてもきれいです。

女の子のような顔をしていても、どこかシャープな所がある、というのがいいですね。

 日本版と一番違うのは最後の対決だと思うのですが、ここもリアリティを出そうとしています。

監督はドキュメンタリー映画をずっと撮っていた人だそうで、リアリティの出し方など迫るものがありました。

 ただ、仕返し・・・なのか、というとだんだん、普段は接することのない高校生の男の子たちと、仲良くなったり、逆にしかりつけたりといった起伏が出てきます。

情けないのは体力や喧嘩の強さ弱さだけでなく、他人の事を自分勝手に責めることだった・・・と気付くときの顔。

 しかし、情けない、体力のない、喧嘩の弱い大人だけれども、よしよし、と肩をぽんぽんと叩く時のイ・ムンシクの醸し出す「やっぱり大人」が良かったですね。

日本版と韓国版どちらがいいというものはなくて、どちらも良かった、好きな映画ですが、韓国版は顔のアップの多い映画でした。

アップに耐えうる顔・・・イ・ムンシクの肉体改造だけでなく、表情も良くなっていく・・・それが堂々としている顔の映画です。 

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