ボンボン

ボンボン

Perro, El

2007年5月2日 シネカノン有楽町にて

(2004年:アルゼンチン:96分:監督 カルロス・ソリン)

 最近、動物ものというとアニマトロニクスの特撮やアニメの高度な技術で、しゃべったり・・・人間のドラマを動物に置き換える・・・というのが多い中で、なんとも素朴な映画です。

もう、犬は犬です。しかもこの映画の犬は、ドゴ アルヘンティーノという大型犬で、あまり表情なく、むーん、と半目で、車の助手席に座っていて、その泰然とした風情がいいです。

 この映画の良さは犬の微笑ましさではなくて、主人公のファン・ビジェカズ、今は無職の52歳を演じた、ファン・ビジェカズという人ですね。

有名な俳優は使わず、素人を集めて作った映画ですが、このファン・ビジェカズという人はソリン監督の映画製作会社の近くの駐車場の人で、撮影が終わったあと、また駐車場に戻った・・・という話が好きです。(ソリン監督は、映画の後も自分の車を駐車するたびになんとなく居心地の悪い気分がするそうです)

 このファン・ビジェカズという人の何があっても、穏やかな顔をしているのがいいです。

大袈裟な演技は一切しないのです。逆に嬉しい事があっても照れくさそうに逆にバツの悪そうな困った顔をするのがいいです。

ガソリンスタンドでスクラッチカードをもらったら、あたり~で「メン・イン・ブラック」みたいなサングラスをもらう・・・というくだりで、サングラス、カッコイイですよ、映画みたい!かけていったらどうです?とスタンドの女の子に言われて、恥ずかしそうな顔をして「いや、いい」と言いながらも、次には車の中で嬉しそうにサングラスかけているところなど、この人のお人柄をよく「説明」しているエピソードです。

 ファン・ビジェカズは、20年勤めたガソリンスタンドをクビになって、今は娘の所で居心地悪く同居させてもらい、手作りのナイフを売って歩いているけれど、誰も買ってくれない。

職業安定所に行くけれど、52歳で特別な技術もない男に職はない・・・しかもこの映画の舞台はアルゼンチンのパタゴニアで、「ブエノスアイレスか・・行ったことないな・・・」という田舎なんです。日本だって、職ないよ。

 もう宮澤賢治の「アメニモマケズ」の「イツモニコココワラッテイル」のような人。

嫌なこと、不安なこと、困ったことだらけなのに、穏やかな顔をしています。

 しかし、ひょんなことで、ドゴ犬をもらうことになってしまい・・・本当はお金の方がいいんだけど・・・助手席に乗せてトコトコ車を走らせていると・・・このボンボンことドゴ犬を目にした人々がよってくる。

見る目のある人から見たら、このボンボンは、素晴らしい犬だったのです。

ドッグ・ショーに出れば良い成績・・・そうなると今度は種付けでブリーダーとしてお金を儲けてくれる・・・はず、ですが、むーんとしたボンボンは、あまり人の言うことをきかないのです。

よくありがちな、飼い主に忠誠心を見せる偉い犬ではなくて、もう、悠然泰然としているボンボン。

 犬、ボンボンが富を運んでくれる・・・という話かもしれませんが、ファン・ビジェカズが調子に乗ることなく、しかたなくもらったような犬でも大事にする、そんな穏やかさ、慎ましさが、人間に富を運んでくれるのかもしれません。

ヒステリックにガツガツすることに、やんわりと警鐘をならしているような映画でした。

 家にいるのは雑種の猫で、なーんにもしません。富も運んでくれません。でも、側にいるだけで、何か幸せ・・・それで十分なんですね。

ファン・ビジェカズにとってボンボンはそんな存在、金が儲かるぞ!と騒いでいるのは周りだけで、ファン・ビジェカズはボンボンが側にいれば幸せ・・・それで十分だ、だからこそのハッピーエンドなんだと思います。 

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