ロストロポーヴィチ 人生の祭典

ロストロポーヴィチ 人生の祭典

Elegy of Life Rostropovich & Vishnevskaya

2007年5月6日 渋谷・シアターイメージフォーラムにて

(2006年:ロシア:101分:監督 アレクダンドル・ソクーロフ)

 ムスティラフ・ロストロポーヴィチ、80歳、世界的なチェリスト。

 ガリーナ・ヴィシネフスカヤ、79歳、ロシアを代表するオペラ歌手。

「2人は夫婦だが、別姓を通している」でドキュメンタリーは始まります。

金婚式を祝う宴で、王様と女王様のように座る2人。

 わたしは、音楽には詳しくありません。流行の音楽もそうですが、クラッシック音楽もそんなに詳しくはないのです。

だから、この2人の名前は初めて聞きました。

特に夫のロストロポーヴィチは、世界的なチェリストで、日本でも人気が高いそうで、このタイトルになったのでしょうが、原題を見るとわかるように、この映画は「ロストロポーヴィチとヴィシネフスカヤ」なのです。

 映画館の観客は、明かにクラッシク音楽ファン・・・といった様子で、アレクサンドル・ソクーロフ監督だから・・・というだけで観た、音楽無知なわたしは、観る前から、圧倒され、どうも、すみませんって感じでした。

ロストロポーヴィチは世界で活躍しましたが、夫人である、ヴィシネフスカヤは、ロシアの中では有名ですが世界的な音楽活動はしていません。

夫は、世界、特にアメリカで音楽を教え、妻はロシアに音楽学院を作り若者の育成にはげんでいます。

 このドキュメンタリー映画はすばらしいクラッシク音楽を聴かせるというものではないと思います。

監督は、奥さんであるヴィシネフスカヤの大ファンで、間にはさまれる昔の若い頃の映像はほとんどが、ヴィシネフスカヤの映像で、全て監督が所有していたフィルムであることが最後にわかります。

もう、監督、オペラ歌手、ヴィシネフスカヤの大ファンだったね、集めていたのね、映像を・・・。

 この夫婦は激動のロシアを生き抜いた2人ですが、政治的な事は省かれています。

ロストロポーヴィチへのインタビュー、ヴィシネフスカヤへのインタビュー、そして2人の盛大な金婚式の様子。

この3つの柱の合間に、ロストロポーヴィチが、ウィーン・フィルの小澤征爾と共に、新作クラッシックのコンサートのリハーサルの様子などがはさまれます。

 クラッシック音楽という絆・・・誰でも簡単に持てるものではない絆で結ばれた夫婦、実は正反対なのですね。

裕福な家に生まれ、音楽教育を受け、天才的な才能を早くから開花させることのできた、ロストロポーヴィチ。

貧しい家に生まれ、親から養育されず、祖母の家で育ち、音楽教育を受けることなく、ロシア初の「音楽学校を出ていないオペラ歌手」だった、ヴィシネフスカヤ。

 ロストロポーヴィチという人はお茶目で、明るくて、ユーモアのセンスにあふれ、金婚式にはヨーロッパ各国の王族たちが招かれていますが、スペインの女王を小娘のように腕を引っぱって歩いたりします。

「世界で、女王にこんなことが出来るのは、ロストロポーヴィチだけである」

音楽学校で教える様子も、チェロを弾く若者の髪の毛と顎を、つかんで頭をふりまわし、生徒たちを笑わせる。

「50年もしたら、地球には異星人がくるね。そうしたら、パスポートは地球人だけになるわけだ。火星人、木星人、地球人・・・。国なんか関係なくなるね」

 ヴィシネフスカヤは、正反対。

厳格、笑わず、女王然としていて、インタビューする、ファン丸出しのソクーロフ監督、大緊張。

「思わず見とれてしまった。まさに女帝だ」

学校では、オペラの一対一のレッスンの長回しが出てきますが、熱心だけれども厳しく生徒に接する様子。

 インタビューの内容もロストロポーヴィチには音楽の事を、ヴィシネフスカヤには、とてもプライベートな事を聞いています。

よく喋るロストロポーヴィチとなかなか口を開かない、笑わないヴィシネフスカヤ。

しかし、生き延びてきたのは、ヴィシネフスカヤの大きな力があったのだ、ということがよくわかります。

 お茶目で気さくなようでも、弟子である小澤征爾とのリハーサルになると緊張感がみなぎるところが凄い。

小澤征爾もロストロポーヴィチを慕って、慕って・・・というのがよくわかります。

2人はよく喋りますが、ロシア語、英語・・・何語を話しているのかわからない、というのが驚き。

小澤征爾は基本的には英語なのですが、夢中になってくると「あ、そうそう!!!!」と日本語で叫んだり、大変な世界を見ちゃったよ、という迫力。

 しかし、一番印象に残っているシーンは盛大な金婚式の最中、夢中になって脇目をふらず食事をほおばるご夫婦。

世界を、ロシアを代表する・・・なんて姿は感じられず、食べま~す、という風景がとてもほのぼのとしていました。

 映画に限らず、「何も知らない人に、おもしろい」と思わせる力があるか、ないか・・・という事を考えます。

活花を習っていて、「よく知っている人に高技術を褒められるより、全く知らない人に「わからないけど、なんか、面白い」と言わせる方が難しい」と言われたのを思い出します。

 このドキュメンタリー映画は、クラッシック音楽を全く知らないわたしも、ほうほうと興味深く観る事のできるものとなっていました。

残念ながら、この映画が公開された直後、ロストロポーヴィチはロシアで病気で亡くなったそうです。たかが、101分の姿を見ただけなのに、とても寂しくなりました。

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