神童

神童

2007年5月13日 渋谷・シネマライズにて

(2007年:日本:120分:監督 萩生田宏治)

 前作『帰郷』がとても好きだった萩生田監督の新作。

原作は人気音楽漫画なのだそうですが、相変らずわたしは最近の漫画に疎いです。

ついでに言うなら、音楽にも疎い。

もう、最近疎いだらけで、困ってしまうくらいなのですが、あえて言うなら変な先入観や決めつけがなく新鮮に映画として観られるのかな、と思います。

 幼少の頃から、ピアノの神童ともてはやされた13歳の少女、うた(成海璃子)

ピアノが好きで、音大に行きたいけれど、もう今年の受験がダメだったら家業の八百屋を継ぐことになっている後のない浪人生、ワオ(松山ケンイチ)

 2人が出合って、喧嘩しながらも、お互い音楽という事で結ばれているのですが、結ばれる、といっても中学生と浪人生。

兄と妹のような関係です。

 しかし、神童、天才と騒がれるというのは、逆にいえば、周りとは違う・・・・うたは平凡な中学校生活にうんざり。

また、ピアノを大事にするあまり母(手塚理美)は、過保護。

学校には指を痛めるから体育の授業は受けさせないでくれ、いつも手を守るために手袋をしろ、手を痛めるから家事なんかしなくていい・・・うたはそんな母が鬱陶しい。

また、そんな「特別な子」を中学生たちが、受け入れるわけないのです。

しかも、うたは、特別扱いばかりされてきたから、相手が大人だろうと、先生だろうと礼儀とかマナーとか敬語とか・・・相手に気を使うなんて事は考えない。

相手との距離がとれない、わからない、人間関係、一本調子な女の子になってしまった、うたは、13歳ということを考えると少し可哀想。

傍若無人で、学校で、いじめられても、倍やりかえす、ますます嫌われる・・・疎まれる。

ますます、うんざりして、ひたすら孤立するうた。

ワオが弾くピアノを初めて聞いた時の言葉は「ヘタクソ」

 ピアノが弾きたくてたまらないのに、上手くいかないワオとピアノを弾け、弾けと言われるほどピアノからは遠ざかってしまう、うた。

 音楽、絵、ダンスといったものは、天性のものがあって、才能のない人はどんなに練習しても上手くならない。

上手くなっても限界がある。

うたは音楽、ピアノには、天性のものを持っているけれども、ひとりの人間としては、全く社会性のない傲慢な子供になっています。

尊敬する人はひとり、今は亡き父(西島秀俊)だけで、とにかく見下す。相手の気持を考えず、場もわきまえずハッキリとヘタクソと言い放つ。

 しかし、この映画はそんな周りを見下し続けることに、1人で頂上に立ち続けることに疲れてくることを描いている映画だとも思います。

ワオの、下手かもしれないけれど、ピアノが好きだ、という部屋にいつもいるうた。

ワオの部屋では、のんびりとリラックスしているうた。

 攻撃的ともいえる役割の成海璃子に対して、受けの役割を果たす松山ケンイチ。

なんだかんだいって、一番のうたの理解者はワオ(とワオのお父さん、柄本明)

いきなりピアノを弾き出すうたに周りは喜ぶけれど、ワオは「あいつがピアノを弾くのはなんか危ない証拠なんだよ」

 ピアノでしか自分を表現できない「かわいくない」うたを演じた成海璃子が、ギリギリスレスレの透明感のある女の子で、嫌味なことを言っても嫌味には聞こえない。

憎々しくヘタクソ、というより、あきれたように「ヘタクソ」と言い放つのです。その辺の呼吸が、とても繊細です。

傍若無人で、誰もかなわないような女の子の影にひそむ繊細さのようなものが、ワオという「器」の存在で次第に変わっていく、けれども劇的に変わる訳ではない、ゆるやかな人間関係の描き方と、逆光を使った映像の美しさが印象に残る映画でした。

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