鰐~ワニ~

鰐~ワニ~

Crocdile Alligator

2007年13日 渋谷・ユーロスペースにて

(1996年:韓国:102分:監督 キム・ギドク)

 30歳になるまで、映画というものを観たことがなかったというキム・ギドク監督の初監督作品。

権利問題などがあったそうですが、それをクリアしてのやっとの公開。

 興味深いです。公開されるたびにどんどん洗練されていく、キム・ギドク監督の最初の世界。

それは、社会の底辺で、憤ることしかできず、その報いを受けなければならない人々の物語。

『悪い男』の原型ともいえる映画でした。

 最初の10分くらいで、登場人物たち・・・漢江の橋の下でホームレスをしている、青年、老人、少年・・・3人の姿を説明せずに映像で語りきってしまっているところに感心。

「ワニ」と呼ばれる青年(『悪い男』のチョ・ジヒョン)は、その日暮らしをしながらとにかく粗暴、乱暴、傲慢。

3人が夜何をするかといえば、橋から身投げした人が死んだことを確かめてから、ワニが川に飛び込み財布をいただく・・・そんな反社会的な存在の人物たちを描きながらも、その色使いは強烈で、やり場のない怒りがスクリーンからばんばんと観客を圧倒する。

 それは、相手が女であっても、子供であっても情け容赦なく乱暴する・・・いつもイライラして、粗野としかいいようのない男、ワニの「とにかく怒っている」そぶりだけでもう、社会への怒りが表現されています。

 ジイさんと呼ばれる老人は、穏やか、チビと呼ばれる男の子は、まだまだ世間知らず。

ある夜、身投げの水音・・・早速、川に飛び込むワニ。しかしそれはまだ若い女性で、息を吹き返す。

最初は暴力的にしか、女性に接することしかできないワニ。

ジイさんや、チビは「こんなところにいちゃだめだ」と女性を逃がそうとしますが、この女性はどこにも行くところがなく、4人の共同生活がはじまります。

 ホームレスといっても、そのテントには、様々な色のペンキが塗られ、防波堤には色鮮やかな絵が描かれています。

しかし、ワニがすることと、その報いに容赦はない。やっつけた、と思ったら、権力がやりかえしてくる。そんな悪循環。

底辺に生きるものはとことん虐げられる。しかし、それでも生きていく。殴られても、騙されても、傷つけられても、血を流しても生きていく。

映画は後半、だんだん、一種の穏やかさとジイさんやチビ、女性を「守る」ということに気がついたワニが、変わっていく様子を描いていきます。

 とはいえ、急にいいひとになりました、とか、皆、とっても幸福になりました、というものではありません。

虐げられたらそれなりに、逃げ道を探していく。他人の身を守るということはどういうリスクを伴うか・・・そんなものをワニは体験していきます。

間にはさまれる、川の中にある「青い部屋」・・・そこに甲羅を青く塗られた亀が泳ぐ。

 この映画は、そのあまりの厳しさに賛否はわかれるかもしれません。

実際、公開されたときは酷評されたそうで、映画会社が完成までに3度も変わったという、スタートをきったキム・ギドク監督。

次第に、完成されていくキム・ギドクの世界の要素がこの映画にはすでにたくさん入っています。

社会の底辺に生きる人々、鮮やかな色使い、情け容赦ない厳しさ、観客に媚びることのない姿勢。

ここまで筋を通し抜いている監督というのは、他にはいないのではないか、と思うくらい強烈な世界を持っています。

初監督作品、といっても初々しさというものがなく、そこにはすでに監督の筋のレールがすでに敷かれていたのだ、という発見が、とても嬉しいと思います。

  

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