恋しくて

恋しくて

2007年5月15日 銀座テアトルシネマにて

(2007年:日本:99分:監督 中江裕司)

 平成元年~2年まで、深夜枠で放送された勝ち抜きバンド合戦、「イカすバンド天国」、通称、イカ天。

5週勝ち抜くとグランドチャンピオンになるのですが、この映画の原案となったバンド,BEGINは、抜群の歌唱力を持っていました。

石垣島からやってきた3人組、という事もあって、5週勝ち抜くのは並大抵の苦労ではなかったと思うのですが、他のグランドチャンピオン・・・フライング・キッズ、たま、The Blankey Jet City・・・解散したバンドが多い中で、いまだに活躍しているバンドです。

 この映画は沖縄映画を得意とする中江監督が、さらに「石垣島映画」とでもいえる映画を撮りました。

この石垣島の素朴な風景に合わせて、バンドをやる高校生たちの健康さ、というのが一番、気持いいところ。

主人公の女の子、山入端佳美という子は、真っ黒に日に焼けて、空手黒帯のちょっとがさつな、実に健康的な女の子です。

「わたし、かわいいでしょう?」という媚びのようなものは、監督の好まないところなのでしょうか、『ナビィの恋』『ホテル・ハイビスカス』に続く、沖縄元気な女の子。

 女の子の兄(ニィニィ)、セイリョウが石田法嗣なのですが、番長というか、親分肌の今時めずらしい、男らしい少年です。

映画の冒頭、子分?の先頭きって、ブイブイ歩いているところは、あの病弱とか、特殊な環境とか、おとなしいシャイな優等生とか・・・過去の役のイメージをがらりと変えて出てきて、これまた真っ黒に日に焼けて、「大きくなったなぁ~」なんて思ってしまうのです。

 兄、セイリョウの一声で、始まったバンド。妹の同級生たちをほとんど脅迫に近いかたちで、いきなりバンド結成。

ここでバンドの苦労というものはすっとばしています。

とんとんとん・・・と上手くいく様子。文化祭で演奏できなければ、自分たちで、ロック大会をやろうぜ、と話は進みます。

兄妹の父は、音楽のために・・・と奄美に行って行方不明。

母は、ジャズクラブで歌を歌っている。アメリカ軍基地の歴史から、アメリカのジャズを歌う母。そのピアノ伴奏をするセイリョウ兄。

でも、妹は、バンドやろう、と言われても、ボーイフレンドのボーカルの英順を、はげまして歌わせる役目で、自分は歌えない。

 行方不明だった父の顛末、高校を中退した兄、そしてバンド番組に出るために東京へと行く英順たち。

別れのシーンがあっても、そこら辺は、じめじめせず、意図的にすっとばしています。

ビギニング、というバンド名で東京に出る栄順たち。島で見守る妹。

 言葉は石垣島の言葉が多くでてきて、時には字幕つきです。

そんな日本であっても、日本でない、石垣島の特殊性というものを、きれいな、透明な空気で描き出しているところがいいです。

じめじめ、めそめそ、泣かそう・・・なんて、かけらもない明るさ。

しかし、石垣島の夜は真っ暗でもあります。

 最後にBEGINが、この映画の主題歌『ミーファイユー』を歌いますが、映画の中に出てくる高校生バンドの歌を一掃するかのような歌の上手さ。やはり、歌、上手いのです。

映画はあくまでも、手探りでバンドを楽しむ高校生たちの姿を描きますから、音楽的には稚拙であたりまえ、そして彼らは、こうなるのね・・・という歌で、映画を語るという手法が、いいです。

 石垣島のお盆のお祭りの風景などかなり神秘的。沖縄いいところ、東京わるいところ・・・といった単純な構図ではない、一見健康的でストレートに見せておいて、石垣島の風景をこれだけ見せてくれる映画は滅多にないと思います。 

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