キサラギ
2007年7月6日 渋谷 シネクイントにて
(2007年:日本:108分:監督 佐藤祐市)
今年の日本映画の大穴、ダークホース。
自殺をとげたアイドル、如月ミキ。
その一周忌にあたる日、ファンサイトの管理人、家元(小栗旬)の呼びかけで、ミキちゃんを偲ぶ、オフ会をやりましょう、ということに。
ビルの屋上の部屋を借りきって、次々と集まるファンたち。
最初は、福島から6時間半かけてやってきた安男(塚地武雄)
そして、おしゃべりな若者、スネーク(小出恵介)
寡黙で無愛想な男、オダ・ユージ(ユースケ・サンタマリア)
・・・・最後に、無職の中年男、イチゴのカチューシャをつけた、イチゴ娘(香川照之)
最初は、ミキちゃんファン同士で大いに盛り上がりましょ!というつもりの家元ですが、オダ・ユージの厳しい一言で、楽しい空気は一変。
「如月ミキは自殺じゃない。誰かに殺されたんだっ」
狭い一部屋の中だけ、出てくるのは5人の男だけ、しかも、全員喪服・・・・。
映画はその5人の会話やぶつかりあいだけというワンシチュエーション・サスペンス・コメディ。
役者さん5人が「とにかく脚本を読んで、絶対やりたいと思った」と語っているように、脚本が素晴らしい。
設定も、まず、如月ミキは、家元いわく「まぁ、C級・・・いやD級といってもいいアイドルでしたからね」
衝撃的な自殺も大人気のアイドルだったら伝説になるのでしょうが、如月ミキの場合は完全に時がたてば忘れられてしまう存在だった、ということ。
そして、集まったのはインターネットのファンサイトでハンドル・ネームしか知らない、本名もわからない、初めて会う、どんな人かわからない5人同士。
そして、様々にはりめぐされたミキの死の謎のヒント。
ぶつかりあう2人、ひたすらそれを騒ぎ立てる1人、間に立とうと、場をおさめようと必死になる1人・・・そして話に全くついていけない1人。
5人の役割が、とてもきちんとしています。
そして、話は(如月ミキの死の真相)は、仮説が仮説を呼んで、二転三転どころか、七転八転してしまう・・・会話の回転の速さ。
だんだん浮き彫りになってくる5人のミキへの思い。
喧嘩になって、「(ミキが)アロマテラピー好きだって?お前なんか、毎日香でいいんだよっ」
「喪服を着ないと盛り上がれないんですっ」
皆、コアなファンだけあって、自分なりの「お宝」を持っている。
しかし、最初は自慢したり、褒め合ったりするはずのものが、すべて証拠につながっていってしまう。
わたしが書けるのはここまで、で後はもう書けません。
何も知らずに観た方がいいと思う映画は他には知りません。
三谷幸喜脚本の『12人の優しい日本人』を彷彿させますが、出てくる人数の少なさ、舞台の狭さ・・・それだけに、5人の役者魂がテンション高く炸裂する様子も見所。
アイドルが好き・・・というのは、特定の人を好きになるのと違って、見返りを求めない無償の熱烈な思いです。
それを、いわゆるステレオタイプのおたく、というイメージを全くなしにして、5人の男たちの熱いドラマにしてしまっているところ、上手いなぁ、と思いますが、観ている間はそんなことよりも、笑って、驚いて、しみじみして、あっという間の108分。
派手な特撮も美術も衣装もない。大勢の人が出てくる訳でもない。壮大なロケもなく映されるのは殺風景ながらんとした部屋だけ。
これだけ、限られた中で、これだけ面白いものが作れるのだ、ということに感激ひとしお。
こういう頭の良さをばんばん、観ることが出来る映画は久しくありませんでした。
余談ですが、「脚本が気に入った」という5人の役者のうち、イチゴ娘の香川照之さんが、「頭にイチゴのカチューシャつけながら、何事もないかのように演技するのがたまりませんでした」という言葉が好きです。
この映画を観ようと思ったのは、予告編で出てくる「喪服にカチューシャつけた香川照之さんが見たい」でしたから。
最後の5人のアレを観る為だけでももう一回、観たい映画です。
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2007年8月1日 銀座シネパトスにて
私は、同じ映画を二度観に行くということは滅多にしません。
時間がそうそうないからです。
でも、この映画は、一回目は、事のなりゆきにあれあれ・・・・・と驚いてばかりいたので、細かい所まで観たかったのと、一回目の最後に書きましたが、最後の5人のアレ、がどうしても観たかったのです。
5人の男性が出てきますが、5人すべてが主役で、脇役というものがない映画というのもめずらしいです。
台詞の配分、そして、ひとりひとりの「本当の姿」が暴かれていくテンポの配分の良さ、一部屋だけ、という設定での5人の立ち位置・・・やはり映画としてとても良く出来ていると思うのです。
如月ミキという、私には全く関係ない(興味ないような)アイドルでも、5人の熱心さ・・・に打たれて、興味がわいてきます。
あくまでも、ミキは今はもういない、という登場人物たちの興味の対象を、完全になくしてしまって、会話から浮かび上がらせるというアイディアは、ありそうで意外とないのです。
映画は始まった時は晴れているのですが、途中で外は雨になる、皆の疑心暗鬼が激しくなる・・・そして最後に夕焼け。
そして、5人はある解決に至り、納得する。でもそれはあくまでも、今となっては解決=真相かどうかはわからない。
それをすぱっと現わしてしまうのが、アレ、なんですね。
ミキちゃんが大好きだっという「気持」だけでここまでもってきてしまうのは凄いです。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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