吉祥天女

吉祥天女

2007年7月19日 新宿ジョイシネマにて

(2007年:日本:116分:監督 及川中)

 この映画は、主役の謎の美少女、小夜子を演じた鈴木杏の目ヂカラ・・・そのひとことにつきます。

もともと目の大きい女優さんではありますが、そのくっきりとした白目と黒目で、様々な目の力を惜しみなく出しています。

 原作は吉田秋生の同名漫画で、わたしも読んだのですが、随分前のことで、詳しい内容は忘れてしまっていました。

吉田秋生の漫画は少女漫画とはいえ、『BANANA FISH』といったヒリヒリとしたハードボイルドだったり、性に目をそむけない青春ものだったりするのですが、この漫画も、17歳とはいえ、天女の伝説の残る旧家の末裔の美しくて、冷酷な策略を描いたりしています。

 昭和45年の金沢。

叶家という旧家に12年ぶりに戻ってきた小夜子(鈴木杏)

その側にはいつも影のように、世話をする、得体のしれない青年(津田寛治)がつきそっている。

 美しい顔につややかな長い髪。ミステリアスな表情に男子生徒だけでなく、女子生徒も惹きつけられてしまう。

同級生の由衣子(本仮屋ユイカ)もそのひとり。ただし、由衣子は、どうも、小夜子の顔をどこかで見たような気がしてならない。

 叶家は、昔、天女が舞い降りてきた時に、男たちに襲われ、羽衣を残して去った・・・その末裔という伝説があります。

「天女の羽衣に触れた女は幸せになるが、羽衣に触れた男は不幸になる」

しかし、小夜子の祖母は、小夜子に「叶家の女は幸せにはなれない」ときっぱりと言い切る。

 そして、今、遠野家という新興不動産一家が、叶家の持つ広大な土地をねらっている。

そこに小夜子の登場で、遠野家は、同じ高校に通う、暁(深水元基)と政略結婚をさせようとする。

暁には、親戚で家に引き取られた同い年の涼(勝野涼)がいて、小夜子は暁よりも、涼に関心を持つ。

 か弱いように見せて・・・実は武道にもすぐれ、近寄ってくる不良なんて蹴散らしてしまう小夜子。

しかし、いざ、となると、か弱い女の子に身を翻し、被害者となり同情を獲得して、周りを虜にし、翻弄していく。

 鈴木杏が、ふと横をにらむときの目。

媚びをふくんで見上げるようにするときの目。

軽蔑したように、見下ろすときのぞっとするような目。

由衣子に見せる優しい目。

そして、笑う時は、唇の両端をゆっくりとつり上げるような笑い方をする。

 叶家と遠野家の伝説を交えた悲劇・・・というと、横溝正史原作、市川崑監督映画・・・のような物語ではありますが、どろどろとした雰囲気はありません。

妖しげな雰囲気を醸し出すかと思うと、無垢な少女のような目をし、誘惑するときは大人の女の目をするのはあくまでも17歳の女の子。

決してあわてたり、ヒステリーを起こしたりせず、何が起きても冷静沈着な小夜子。騒ぎを起こしてもそれは全て小夜子の計算の内。

 そしてこの物語では由衣子の姉(市川実日子)が、叶家の蔵の中を調べるうちに・・・過去の叶家の事件につきあたる・・・という由衣子と姉の部分はとても微笑ましく、さわやかな雰囲気を持っています。

 最後の最後まで、小夜子を慕う由衣子。

何もかも思い通りに、密かに策略を練っている小夜子よりも、由衣子はなぜか小夜子を知っている・・・という親近感を持っている。

この姉妹がとてもさわやかに描かれているので、ドロドロにはなっていないのですね。

 また、養子で肩身の狭い思いをしている少年、涼を演じた勝地涼が、吉田秋生の漫画のキャラクターそっくりの顔つきをしているのに、びっくりしました。

0コメント

  • 1000 / 1000

更夜飯店

過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。