街のあかり

街のあかり

Ljus i skymingen/Lights in the Dusk

2007年7月22日 渋谷 ユーロスペースにて

(2006年:フィンランド:78分:監督 アキ・カウリスマキ)

 アキ・カウリスマキ監督(通称アキちゃん)の映画は誰も真似できないものを持っています。

これみよがしなものが、全くない世界の中の救い。

物がない中での、本当の豊かさ。

表情がない中に、想像をかきたてる豊かな想像。

貧しいを描いても、貧しくない。逆に豊かって何?ということを、平然と、そして人間も犬も男も女も平等に描いてしまう。

 フィンランドの警備の仕事をしているコイスティンネン(ヤンネ・フーティアイネン)

黙々と警備の仕事をしている彼には友人はいない。恋人もいない。家族もいない。全くのひとり。いつでもどこでもひとり。

仕事帰りに寄る、グリルのワゴン車の女性とは話しをするけれど、女性は女性で無愛想。

 会社では周りは「飲みにいこうぜ」と言い合っても、コイスティンネンは無視される。

ひとりで、バーで酒を飲むコイスティンネン。しかし、表情はいつでもあきらめきったような顔をしていて悩む風はありません。

 しかし、「警備」という仕事に目をつけた悪い奴がいました。

そこで、情婦のミルヤをコイスティンネンに近づけて、宝石店へ泥棒する暗証番号を盗み出そうとする。

 ひとりでコーヒーを飲んでいると、突然、同席してくる女の人。

普通それだったら、変だな・・・・と疑問を抱くのでしょうが、コイスティンネンはあっさりと「恋に落ちてしまう」

 会話が下手な人を描かせたら、なんといってもアキちゃんで、ここでもいきなり「結婚する?」とか言ってしまうのでした。

「その前に知り合わなきゃ」

「どうすればいいんだ?」

「普通、映画に誘うわね」

「映画に行くか?」

どひゃ~~~~~~~~~ってな簡素さ。ここまでやってしまうともう大胆不敵。

 また、普通2人が向かい合って語る時、向かい合っている、ということを見せる(説明する)ために、斜めから撮るのに、この映画では、真正面から人物を撮ります。

また、2人が向かい合っているか、横並びになっているか・・・だけ、という映画の普通やるだろう技を使わないのです。

 しかし、コイスティンネンは、夢中というより、イソイソとしてしまうのでした。

映画の最中も、隣に座っているミルヤしか見ていない・・・じぃ~~~と横顔を見ているのを、ミルヤはわかっているのに知らぬ振りをする。

(この2人の観ている映画が、なんだかバンバンバリバリ~~~うるさい映画で一体何の映画だ???)

だんだん、近づいてくるミルヤ。だんだん、イソイソしはじめるコイスティンネン。

 アキちゃんの映画では、食べ物描写、食事の描写の個性があります。

とにかく、「まずそう」なのです。

でも、どんなまずそうな物を食べていても、「美味しいものが食べたいのに、貧しくて食べられない~~~」というものではなくて「これが普通なんですけど」と堂々としている所が特徴。

 コイスティンネンがミルヤをやっと部屋に誘う時のイソイソと出す、ベーグル。

皿にベーグルだけ・・・ポテチとか、いかくんとか、カルパッチョとか何かないのか?と思うけれど、ベーグルだけ出すのです。

 ミルヤに近づこうとしても、いざとなるとするりとかわされてしまうのに、イライラせず、イソイソとするコイスティンネン・・・哀愁ただよってます。

 そして騙されたんだよ、利用されたんだよ、とわかっても、コイスティンネンは怒る風でもなく、淡々と刑務所に入るのです。

ミルヤの正体がわかっても、まだ、ミルヤが好きなんですよ~コイスティンネンは・・・・ああ、もうため息。

 また、アキちゃんの映画では犬が出てきます。

今回も耳のたれた、ボタンような目をした、鼻の先がみずみずしい・・・犬のパユ(本名)が出てきます。

何する訳でなく画面にぽ~~~っといるだけなのですが・・・ほったらかしにされているらしい何度も見かける犬を、どうにかしないのか!と飼い主に言い寄り、逆にボコボコにされても、平然としているコイスティンネン。

 しかし、そんな男を遠くからいつも見ている人もいる。いつもコイスティンネンを待っているあかりがある。

そんな人の気持が、わかる、やっとわかるラスト・シーン。

もう、手をつなぐだけでこんなに、胸が熱くなる至福のラストはありませんよ。

 この映画の冒頭に流れる歌は「ボルベール(帰郷)」です。

遠くへ行くわけではないけれど、めぐりめぐって戻ってくる男の気持。

何が豊かで、幸せなのか・・・というとてもシンプルな事を、寡黙なシーン、少ない台詞、飾りのない風景の中で、観客の想像力を喚起させながら映画をふくらませる・・・という技を持った映画。

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