憑神(つきがみ)

憑神(つきがみ)

2007年7月22日 渋谷 TOEI1にて

(2007年:日本:107分:監督 降旗康男)

 原作者の浅田次郎さんは、ある所で嫌いな言葉は「勝ち組、負け組」だそうで、金があれば勝ちという貧困な考えは嫌い、言わない方がいい言葉と言われていました。

確かに、浅田次郎さんは様々なジャンルの小説を書いているけれど、「調子にのった勝ち組野郎や卑屈な負け犬女」は拒絶しています。

その考えには全く同感なわたし。

 この映画は、そういった浅田次郎さんの思いがとてもストレートに出ています。

 幕末。

時代が大きく変わろうというとき。

下級武士の次男、別所彦四郎(妻夫木聡)は、向島の三囲(みめぐり)稲荷に行ったら・・・と蕎麦屋の親父(香川照之)にいわれて、ふーん、と思った時、見つけた「三巡稲荷」・・・酔っぱらっていて、まぁ、ここでいいや・・・と拝んだら・・・・来てしまったのは「貧乏神」「疫病神」・・・・そして「死神」

 困った時の神頼みと言いますが、もう、来ないで!って神様ばかり現われてしまう前半。

この映画はテンポがよくて、宿変え、といって災難を他の人に振り替えることが出来る。

しかし、「死神」には・・・・自分が死にたくないから、他の人に死んでもらうのは・・・という悩みに。

 別所家は、代々、将軍の影武者のお役目をしているのですが、幕府が倒れて将軍がいなくなったら、影武者も必要なくなる。

戊辰戦争が始まり・・・・そして、彦四郎はある決意をします。

 人情と仁義と正義を貫く・・・という役をあえて若者、青春を演じてきた妻夫木聡が演じていますが、「青春をまったく謳歌できなかった若者」なんですね、今回は。

 テンポがくるくると変わって、次々と現われる神様の面白さもありますが、底に流れているのは「人としての良識を持つ」という事で、決してそれは神様が授けてくれるものではないのです。

それが、押しつけがましくなく、観ている内は、あれあれ、とテンポの良さに引き込まれるのですが、後に残る印象は、深いものがあります。

 彦四郎は、家は貧しいが、一応武士であり、身分制度にがんじがらめにされている上、次男、という家を継ぐ息子でもない。

金持の家の婿となっても、跡継ぎの息子が産まれれば、いいように離縁。「ただの種馬」なんて影で言われています。

いわば「負け組」なのかもしれませんが、しかし、人間としての尊厳というものを大切にして、勝つも負けるも人間にはありはしない、心持ひとつでいくらでも誇りは持てる、という熱意が印象に残りました。

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