選挙
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2007年7月22日 渋谷 シアター・イメージフォーラムにて
(2007年:日本:120分:製作、監督、撮影、編集 想田和弘)
ニューヨーク在住のドキュメンタリー監督、想田監督による「第一回 観察映画」
この映画は、ひたすらひとりの人間の観察に徹しています。
ナレーションもテロップ(説明)も、音楽も全くない。
東大時代の同級生が、突然、「選挙に出馬する」ということを知った監督が、何の準備もせず、下調べもせず、脚本も書かず、スタッフも雇わず、制作費は全て自分で出し、主義主張を全く出さず、ひたすら追いかけ、観察した結果が見事な選挙を映す鏡になっていたように思います。
政治の世界とは全く縁がない切手コイン商、川崎市の市議会補欠選挙に出馬した山内和彦氏(40歳)は、地元出身でもない。
自民党推薦を受け、選挙に出馬するために、川崎市に引っ越してきた。こういうのを落下傘候補というそうですね。
そんな「素人」が、ひたすら「投票のお願い」を声をからして叫びまくる。そんな選挙運動の2週間。
政治の知識も経験もない、選挙事務所は自民党の議員の「選挙動員」と奥さんだけ。
監督の声が出てくるのは一ヶ所だけでした。
「(この選挙の)費用はいくらぐらい?」
「わからない。選挙が終わってから請求書が来る。大変な金額だよ」
とにかくおじぎする。握手を求める。名前を連呼する。政策など関係ない。ひたすら名前を連呼しつづける。
選挙事務所は過去の先生たちの選挙で、「選挙なれ」した人ばかり。そんな選挙慣れした人から見たら、山内氏は歯がゆくてしかたない。
「街頭演説に耳を傾けるのは3秒って言われているんだよ。だから3秒に一回は名前を言わなければ」
「今回、これだけ「先生たち」のお世話になったんだから、次の選挙は、恩返ししてくれなきゃ」
何をしても怒られ、何をしなくても怒られ、政治の事になると無口になるが「がんばります、がんばります」と拳をあげる。
山下氏がぽつっと車中で言うのは、「自民党公認」「東大卒」・・・それだけでいいみたいよ。あといい人そうにみえるか、みえないか、だけかな・・・・」
一番、本音が出ているのはたまたま東大の同級生たちと会った時の、ちょっとリラックスした時。
「お前が選挙に出馬するなんてなあ」「そんなつもりなかったのよ。ただ、ちょっとコネがあって声かけられて、やります、って言ったの。
本当はもっと有名になってから政治やりたかったんだよね」
決して悪い人ではない・・・というのは十分わかるのですが、「これでいいの?」という疑問がふつふつと。
某映画コメンテイターは、「(前略)なんだか応援したくなったのは、夫婦の人柄のせい?」と相変らず呑気なコメントをしていましたが、監督のカメラの向こうの監督は「山内さん、がんばって」ではありません。
「山内、お前、一体何してるんだよ」です。
わたしも、この人、なにしてるんだろう・・・・でした。
ずっと突き放した距離を保っています。この距離の保ち方がきちんとしているから、観ている側は、なんの先入観も持たず、この選挙を見つめることができるのです。
政治がどうとか、どの政党が正しいか・・・などといった偏りなど全く持たない監督がとり続けた距離。
自民党首、小泉(前)首相をはじめ、有名議員が応援演説にかけつけるけれど、山内和彦氏については、演説の前に「名前はなんだっけ?結婚してるの?子供はいるの?あ、そう」で、車の上ではいかにも・・・応援しています、熱く支持を訴えるところを見逃さない。
山内氏は見事、当選します。
選挙活動をした若い男の人が「これから山内さんを「先生」って呼ぶの?」「そうだろうな」「うへえ」
わたしが観た時は英語字幕つきでしたが、やたらと議員を「先生」と呼ぶのにさすがに英語の訳が出来なくて'Sensei'になっていたのが、妙におかしかったです。
何故、政治家は先生なの?
この映画でちらりと出てきますが2005年のこの選挙。次の2007年の参議院選挙では・・・・応援してくれた先生がライバルになってしまうんだよね。
さて、2007年、参議院選挙が終わった今、山内氏の近況はいかに?
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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