22才の別れ Lycoris 葉見ず花見ず物語

22才の別れ Lycoris 葉見ず花見ず物語

2007年8月21日 テアトル新宿にて

(2007年:日本:119分:監督 大林宣彦)

 世界最年長の映画監督、ポルトガルのマノエル・デ・オリヴィエイラ監督の映画を観た時、感心したのは、当時80代だった監督の映画では、14才、20才、30才、44才・・・・・女性がいくつであっももう全て「若い女」である、という描き方でした。

若い人たちにとっては、ガールフレンドや妻が年上であることがどうとか、男の人がいつまでも若い女の子に固執したりするのを飛び越えて、わたしにとっては「若い女」なんだ、という境地に達している監督の描き方にに、若いモンがどんなにあーだこーだ言っても、逆立ちしてもかなわない大人の精神を感じましたね。

 話は急に飛びますが、30代になって就職活動をしたとき、いくつもの試験や面談の末、最終候補2人に残りました。

しかし、30代だったわたしは不採用。

それは何故か?

「どちらでも良かったのですが、もう1人の人が26才だったので若い方を選びました」なんてぬけぬけと言われて、落とされた時、非常に傷つきました。Younger is better.・・・・これが現実なんです。

 さてやっと映画の話になるのですが、大林宣彦監督は、「永遠の少女」を探しています。大林映画の少女というべきか。

しかし、この映画は、伊勢正三の『22才の別れ』というフォークソングから物語を立ち上げているので、22才の女の子が出てきます。

花鈴(かりん)という女の子は、22才だから、もう「少女」とは言えないかな、と思うのですが、映画の中では「大林監督の永遠の少女」です。

監督の思いは、「若い人たちに未来を託す」という境地に達しているから、見つけ出した「少女」を自分のものにしようとはしません。

いつか、少女は成長していく、ということがよくわかっているから、それを見守る、エールを送る・・・という余裕が感じられるのです。

 この映画の主人公はもうすぐ44才になる俊郎(筧利夫)です。

年収1500万円の商社マン、独身。商社の福岡支社に勤めています。

偶然出合ったコンビニの店員・・・もうすぐ22才という女の子が、昔、つきあっていた、22才の時に別れた女性、葉子の娘である、という事実を知って、急接近する2人。ついには結婚しよう、という話にまでいってしまう。

しかし、俊郎にあるのは花鈴の母で、花鈴を出産したときに亡くなってしまった葉子との思い出です。

 わたしは、恥ずかしながら、世代としては俊郎の世代です。

この映画は「世代の違い」の映画ですが、俊郎の上司、峰岸徹の「団塊の世代」、バブルの申し子と言われた「バブル世代」・・・そして今、20代の若者たちの違いを明確に出してきます。

決して、今時の若いモンはけしからん!などとは言わず、きちんと受止め、育てていくのが大人の役目だろう、という監督の思いがよく、わかるのです。

 この物語は、フォークソングですから、「あなたとわたし」「きみとぼく」といった物語性があるわけですが、それを単なる、「きみとぼく」だけにしないで、世代を語り、若者に未来を託す・・・という監督のメッセージ性がとても高い物語です。

 副題にも「物語」とあるように、これはリアリティを追求したものではありません。

俊郎は、商社マンとだけで、具体的にどういう仕事をしているのかは描かれません。

ただ、いつもきちんとした背広をきて、背筋をのばし、早足で脇目をふらずに歩く。

一緒に歩く人はいつも俊郎を小走りで追いかける・・・という描写から、俊郎がどんな仕事人であるかを語ってしまっています。

また、表情も固く、憂鬱感を漂わせている。

それは、昔、葉子が好きだった、リコリス・・・・彼岸花は、花は葉を見ることができず、葉は花を見ることができない・・・という子孫をこの目で見ることができない、見ようとしない世代である・・・という比喩のさせ方で物語っています。

自己中心的で、先も後も見ようとしない・・・そんな世代であることを痛感しているわたしは恥ずかしながら身につまされることこの上ない。

 そして、物語・・・というのは、現実ではない、むしろ、嘘の世界である、ということを強調するかのような美術セットの数々。

もちろん、映画の作りとしてはさすがスムーズで美しいのですが、そこに、恥ずかしさを漂わせています。

恥ずかしいくらい、作り上げた世界でもあるわけです。

それが不快かというと、そこら辺は、監督の世界の独特さで、「これは、「ある物語」だ」という語りの上手さにもひきこまれてしまう。

 恥ずかしい、というか、身につまされるというか・・・そんな思いを抱きつつ、うすき竹宵という灯籠祭の美しい灯りなど詩情性にもあふれています。

今、特撮やCGが発達しぬいてしまった現代で、こういう映画を作る大林監督の映画から、目がそらせません。 

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