天然コケッコー

天然コケッコー

2007年8月24日 シネスィッチ銀座にて

(2007年:日本:121分:監督 山下敦弘)

 見終ってから、この映画が2時間1分という、(わたしの中では)長い映画だったのだと気がつきました。

映画というのは90分くらいで終わってくれるのがいい、と思っているのですが、この映画の体感時間は短い。

 前作『松ヶ根乱射事件』では、人に潜む悪意を適温で描いてしまった山下監督の新作映画は、ひたすらいい気持が続くのでした。

暑苦しくもなく、寒々ともしていなく・・・四季の物語であっても、その醸し出す空気は「ほどよい気持よさ」

 島根県の山間の分校・・・小学生3人、中学生3人の6人の学校。

中学生3人は女の子で、右田そよ(夏帆)は村で唯一、学校で唯一の中学2年生。

そんな中、東京から大沢くん、という中学2年生の男の子が転校してきた。

しかし、なんとなくとっつきにくい大沢くん。

でも、子供たちはそんな大沢くんを、疎外したりせず、自然に受け入れる。

夏休み、海に行こうよ、ということになれば、大沢くんを誘うし、大沢くんもついてくる。

 子供たちは、学校へ行くときも遊びに行くときも、自転車にも乗らず、車で送ってもらうこともなく、てくてくと歩く。

この映画はてくてくと歩く映画です。

 そよちゃんは、年上ということもあって自然とリーダー的な存在だけれども、一つ下の女の子たちとちょっとした仲違いもする。

でも、そんな仲違いや気まずさも深追いせず、自然と仲は戻るのです。

 村には若者がいないのだなあ、とわかるのが、映画『14歳』の監督、出演をしたシゲちゃんこと廣末哲万です。

妙にまばたきしない青年。目をいつもかっと開けているのがおかしい。

郵便局の局員なのですが、子供たちがお祭りに行く、となると引率してあげよう、一緒にいてあげよう・・・とついてくる。

若い女の子がいないもんだから・・・・子供たちにかまうのですが、「別に誘ってないけど・・・」とちょっと子供たちは引き気味。

そよちゃん、相手してあげてよ・・・と逃げてしまうところがおかしい。それでもシゲちゃんは、気にしない平然としている。

 そよちゃんを演じた夏帆ちゃんという子は、本当に原作のくらもちふさこの漫画の主人公のようにかわいい少女です。

かわいいだけでなく、どこか、ぬけているのです。

時々、口をすべらせて自己嫌悪におちいり、一番年下のさっちゃん、小学一年生はべったり、「そよちゃん、そよちゃん」と慕ってくる。

おしっこもらしても、あ~いわなきゃだめだよお、と世話をし、さっちゃんが、色水でジュース屋さんごっこをしていて、小学三年生のカッちゃんに、ジュースどうぞ~~といっても、さすがにカッちゃんは相手にしない。

あ、そよちゃんだ~~~~~っと走っていって、ジュース!というと「あ、ありがとう。おいしそうやねぇ」といってぐっとそれを飲んでしまう・・・・さすがのさっちゃんも、「あっ!」と言っても、飲んでしまうのが、そよちゃん、という女の子。

 中学3年の修学旅行に東京行きがきまり、引率の先生3人、生徒2人で歩く東京。

ルーズソックスを、おみやげにおそろいで買って、大沢くんに「おい、学校でいいのかよ」と聞かれても、「白ならいいって。先生にちゃんと聞いたもん」といって、下の子たちにおみやげを買うのがそよちゃんという女の子。

でも東京は、そよちゃんにとって疲れる街。先生が「東京は合わない、ってことがわかっただけで勉強になったな」

 そしてそよちゃんと大沢くんは、中学を卒業する。

誰もいない教室の黒板にそっと口づけして、もたれかかる・・・というシーンは、恥じらいなく、堂々と美しくさらりと綺麗に撮ってしまうところ、山下監督の腕の良さを見たような気がしました。

 平和で静かな田舎の村を狭苦しく描かず、どの子の家も広々とした大きな家で、かといって、東京に憧れる・・・といった起伏にも欠ける退屈さもあるけれど、それを「退屈」という風には描かないのが、この映画の一番の良さだと思います。

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