酔いどれ詩人になるまえに

酔いどれ詩人になるまえに

Factotum

2007年9月4日 銀座テアトルシネマにて

(2005年:アメリカ=ノルウェー:94分:監督 ベント・ハーメル)

 原題のFactotumというのは、イギリス英語で、「雑働きをする人、何でも屋」という意味です。

主人公、ヘンリー・チナスキー(マット・ディロン)は、とにかく書く事が好きというより、やめられず・・・熱に浮かされるように書いて、出版社に送ってはボツになる生活。

 しかし、生活と酒と煙草の為には、まさに何でもやります。

この主人公のモデルとなったチャールズ・ブコウスキーという人は実際は、もっと過激な無頼生活をしていた人だそうですが、映画を作ったのは『キッチン・ストーリー』のベント・ハーメル。

淡々とした、観察のような描写を貫いており、劇的な事は、あえて避けているような気すらします。

 氷の配達の仕事をしても、氷を届けた先のバーで、酒を飲み・・・しかもトラックの扉は開けたまま・・・氷は解けてしまい、職もその場で解かれてしまう。

タクシーの運転手になろうとすれば、過去の数々の飲酒運転逮捕歴、ばれてしまいボツ。ボツ、ボツ、ボツのボツボツ生活。

 バーで出合った女、ジャン(リリ・テイラー)と即、意気投合して同棲。

酒と煙草とセックスに溺れながらも、左利きの手で汚いノートに熱に浮かされたように「言葉」を書き連ねる。

何を書いているのか一切出さないところが、いいです。とにかく、何か、書いている。

 そして、ジャンを演じたリリ・テイラーが良かったですね。

酒とセックス依存の女であっても、チナスキーが文章を書くことには干渉しない。

ジャンは、「貧しくて、ダメな男」しか好きにならないのです。

競馬で、大勝ちして、いい服買って、いい酒買って・・・・ここら辺がチナスキー、そうそう自己中心破滅型ではない所なのですが、ジャンにもいい生活をさせようとすると「ちょっと小金を稼ぐと、すっかり金持気分」と「いい生活」を断固拒否するのです。

ハスキーボイスで、化粧もせず、身なりも構わずひたすら、酒とセックスだけの女・・・なのですが、筋を通す所は妙に通す。

太ももに茶色いシミが浮いているような、くずれた女。

リリ・テイラーが凄いのは、いつも綺麗、いつも可愛い、いつでも若いのではなく、時々ものすごく「可愛い表情」をさっとだし、さっとひっこめてしまう所ですね。魅力満載なのではなく、時々思いがけないところに、飛び出してくる魅力。

 だから、ジャンと一度は離れたチナスキーが、ちょっと金持でいい女、マリサ・トメイと出合ってもまた、ジャンの所に戻るのもわかるような気がします。

 出版社にチナスキーと一緒に行っても、ジャンは外で待っていて、ぶらぶらしている。

女房気取りで、チナスキーを自分の思い通りに動かそうなどとは思っていない、さばさばとした感じがとてもいいです。

めずらしくヒールの靴、はいたら足が痛くなった・・・というとチナスキーは自分の靴を履かせ、自分は裸足で2人でとぼとぼ歩く。

美男美女の理想のカップルの姿とはほど遠い2人なのに、なにかしらでしっかりつながっている二人・・・というお似合いのカップル。

 マット・ディロンは、酒と煙草と女と競馬・・・の底でうごめきながらも、自称「詩人」を言い続けても、滑稽ではないのです。

マット・ディロンとリリ・テイラーのくずれ方が、綺麗事でなく、綺麗に描かれています。

 映画は唐突なおわり方をします。

その後は、作家、詩人として著名になるのだから、そこまでは描かず、さっと引き際もいい。

「わかりやすい」「感動」「泣ける」・・・とはほど遠い映画ですが、わたしはその素っ気なさが醸し出す、映画の余韻がとても好きです。

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更夜飯店

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