人が人を愛することのどうしようもなさ

人が人を愛することのどうしようもなさ

2007年10月1日 銀座 シネパトスにて

(2007年:日本:115分:監督 石井隆)

 パワフル。

そのひとことにつきます。

そして、映像美。

 スクリーンに描き出されるものの多くは「ポルノ」かもしれない。

18禁映画かもしれない。女性より、男性が観たがる映画かもしれない。

 「天使のはらわた」シリーズなどで有名な石井隆監督の’名美と村木の物語’

この映画では、村木は少しだけです。

もう、若くはない・・・有名俳優と結婚してうわべは幸せそうだけれど、実は夫(永島敏行)は浮気を堂々としているのを知っているけれど何も言えない女優、名美を演じたのが喜多嶋舞です。

 名美は雑誌記者(竹中直人)に新作映画についてインタビューを受けます。

最初は、堅苦しく綺麗事を言っている名美ですが、映画についてどんどん語るうちにとりつかれたようになっていきます。

女優人生をかけるつもりで臨んだ映画『レフトアローン』

それは、ハードポルノ映画であって、最初は戸惑う。自分のイメージはどうなるのか。演じきれるのか・・・。夫は許してくれるのか。

 『レフトアローン』という映画でも主役は女優であってその女優が主演する映画が2本、描かれます。

夫の浮気に気がついた妻・・・というシンプルな設定であっても、設定は微妙に違う。

映画の中の映画、そしてまた映画・・・映画という虚の世界の中で、ねじれた性の開放なのか、鬱屈なのか・・・女優名美は様々な役名になって「壊れていく女」をパワフルに演じます。凄い体力の持ち主。

いつしか、どれがどの世界で、今、何の映画のことなのか・・・・混然としてきますが、そうすると雑誌記者が、ポイントをついた質問をする。

その質問に答えながら・・・どんどん女優のわたしと現実のわたし・・・が一体化していく、その表情が怖い。

 夫の浮気の反動から夜、化粧を濃くして男を漁るようになる女の物語、夫の浮気現場を発見してしまう女優の物語・・・・そしてハードボイルドタッチのポルノ映画。

 照明の光はいつもスクリーンの中で、色鮮やかに輝いている。

家の壁には、ゆらゆらと青いさざなみのような影が映っている。

閉鎖的な所で、大胆な行動を繰り返す女。

しかし、全く精神は安定しない不安定。

なにをされても平然と受止めることの出来る女。それが快感なのか・・・どうかはわからない。ただただ無心に夢中になりたいだけ、のような哀しさと弱さを感じます。

 名美にはマネージャーがいて、仕事上のパートナーは岡野(津田寛治)。

アイドル時代からのパートナーで、名美のことを一番に思っているのは、夫よりも岡野なのです。

岡野は名美が何をしようと・・・名美を守り続ける。なにがあっても守り続ける・・・というポルノ・シーンの激しさの影にあるのは岡野の見返りを求めない名美への想いなのです。

もう津田寛治のひたすら影に徹して、想いを伝えようとせず、守り続けるそのかっこよさにじ~~ん。

 喜多嶋舞は、この役をすすんで演じたいと言ったそうです。

世の中、何がよくて、何がいけないことなのか・・・そんなものが曖昧になってしまう中に衝撃的な刺激・・・というのがよくわかる強烈な映像世界。

全身をさらけだし、弱さ、強さをさらけだし、「いやらしい」というより同性から見て「ものすごい体力のパワフルさ」に圧倒されます。

『氷の微笑』のシャロン・ストーンなんて、甘っちょろいですよ、石井監督の世界からしたら・・・

 観客は圧倒的に男性が多く、女性向けではないのかもしれません。

しかし、題材がなんであれ、映画というものへの心意気が感じられるこの映画、ただのスケベ精神を満足させるだけには留まっていません。

なんといっても男と女の違いをこれだけ明確に切り取った映画は滅多にないと思うのです。

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更夜飯店

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