畏れ慄いて
Stupeur et tremblements
2007年10月21日 TOHOシネマズ六本木ヒルズにて(第20回東京国際映画祭~第20回特別企画 映画が見た東京~)
(2002年:フランス=日本:107分:監督 アラン・コルノー)
海外で活躍する日本人の姿は、様々なメディアで人気です。
特にアメリカ・大リーグで活躍する野球選手や、ヨーロッパで活躍するサッカー選手話題が出ない日はないのではないでしょうか。
日本という国を飛び出して、海外で生活することに対する憧れは大変、強いものだと思うのです。
映画でも、「ハリウッドで認められた」は、とても大きな冠です。
しかし、実際、「海外で暮らして、働く」ということはどういうことか・・・華やかな活躍にばかり目がいっている観客の頭をがつんと一発張り飛ばす映画がこれです。
映画が見た東京・・・これは、異邦人からみた東京の姿。
バブルの時代、日本の商社で働いたベルギー人女性の自伝的小説を映画化したものです。
主人公のアメリさんは、日本で生まれ、5才まで京都で暮らした女性で、大学を卒業した後、日本で働きたい・・・と来日。
大手商社の弓元株式会社に、通訳として雇われる。
しかし、通訳の仕事なんて何にもない。
とにかく、邪魔者扱いされてしまい、散々な目にあってしまうのです。
この映画は、フランス映画祭でのみ上映されて、公開にはならなかったそうです。
デフォルメされているとはいえ、アメリさんをいじめぬく日本人像に非難ごうごう・・・だったそうで、観てみるとそれもそうかもしれません。
「早く辞めてしまえ」とばかりに確信犯的な嫌がらせをしぬき・・・しまいにはトイレ掃除だけやっていろ・・・という屈辱的な待遇になってしまう。
この映画ではどういったいきさつで、日本で職を得たか・・・が抜けているのですが、バブルの時代って、エライ人の道楽で外国人を雇って、押しつけられる・・・といった事を実際経験しているわたしは、一概に、このデフォルメされた上司や同僚たちが、変だとか、おかしいとかは、思わない。
むしろ、自分の身を守ることだけ・・・保身にばかり走って、人を陥れたり、非難したり、見て見ぬふりをして、要領よく点数をかせぐ人が、「仕事が出来る」という上からの評価につながる・・・上昇志向の人ばかりでなく、保身にしがみついて仕事にしがみついている人にとっては、「仕事を最初から教えなければならない外国人」は邪魔なだけかもしれません。
アメリさんは日本語が上手く、その証拠に、喧嘩も出来るくらいの日本語力を持っています。
ただ、日本人とはこういうものだ・・・・という思いこみも同時に持っている。
職場の直属の上司は、吹雪さん(辻かおり)という、29才独身の女性。
背が高くて、黒い髪、きりりとした目、百合のようになめらかな白い肌。
最初は、なんて美しい日本人と「仲良くなれて」と思う・・・しかし、フランス語を活かして報告書作りで褒められた・・・といったことが、長年、独身で苦労して、地位を築き上げた吹雪さんのプライドを逆なでしてしまい、吹雪さんは、逆転して「美しき敵」になってしまうのです。
経理の仕事、コピーとり、お茶くみ、トイレ掃除・・・どんな雑用も、「自分の仕事」と発想を転換させて責任を持とうと、日本の社会にとけ込もうと努力するものの、なにもかも裏目に出てしまう悲劇ともいえます。
アメリさんの奮闘は、他人事ではないのですが、どんな状況になってもアメリさんは、あきらめない、辞めない。
与えられた仕事を全うしようとする。
そんな姿が認められそうになると、立ちはだかる、吹雪という女性。
この映画では大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』が出てきます。
坂本龍一と捕虜、デビット・ボウイになぞらえて、吹雪さんに首を切られるという美しい妄想にもかられてしまう。
吹雪さんに『戦場のメリークリスマス』を観たかと聞くと、「観たけど、音楽はよかったけれど、くだらない映画だわ」とばっさり。
そんな吹雪さんに「あなたは、メタファーを理解するべきだわ」と言う。
この映画では、アメリと吹雪という2人の女性の対立だけでなく、高層ビルから見える東京の風景に見とれて・・・その上空を飛ぶ妄想にかられる・・・というのが何度も出てきます。
ネオンの美しい東京の空を飛ぶ夢をみながら、現実に立ち向かうアメリさん。
一年の契約期間が終了したとき・・・それまでの周り人々のリアクションが色々で、日本人は鬼だ、とだけ決めつけた抗日映画などよりも、複雑で理解しにくい、日本人のネガティブな姿を浮き彫りにして、さらけ出した映画です。
どんなにつらくあたられても、嫌味を言われても、アメリさんは、吹雪さんに対して、畏れ慄きながらも、尊敬の念を抱き続ける。
なにをどうしても、吹雪さんと、アメリさんの間の溝は埋まらないのですが。
こういう日本人像というのを映画にして、みせる・・・ということはめずらしい事で、話も目が離せなくなるようなテンポで綴られていく。
雑用をイヤな顔せず、こういう風に考えればいいのね、とかなり無理はあるけれども、受け入れていく様子はコミカルでもあります。
メタファーを理解できなかった吹雪さん。
文化交流や留学などで、文化に接する事は可能だけれども、言葉が出来るだけで、即、外国人と同等に働くことができるのか・・・本当に国籍の違う者同士が理解することは難しいといった疑問や現実も暗示している映画です。
言葉が出来る=仕事が出来る・・・という安直な考えを否定している。
「英語を活かした仕事がしたいから、雑用なんかは自分の仕事ではない」と何も出来ないのに、仕事を選ぶばかりでむくれて辞めていった若い人を何人見てきたことか。
何の情報もなく観た映画でしたけれど、実際、自分が今している仕事・・・仕事をしているときの気持・・・そんなものがとても身につまされる・・・というわたしは共感の部分が大変大きい映画でした。
と同時に嫌悪感しか持たない人もたくさんいるだろうな、誰彼にも勧められる映画でもないな・・・とも思います。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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