サントゥール奏者

サントゥール奏者

Santuri

2007年11月19日 有楽町 朝日ホールにて(第8回東京フィルメックス)

(2007年:イラン:106分:監督 ダリウシュ・メールジュイ)

特別招待作品

 本当に東京フィルメックスは、世界の様々な監督の映画を教えてくれると思います。

ダリウシュ・メールジュイ監督は、1939年生まれですから、今年、68歳です。

しかし、この映画、68歳の人が作ったとは思えない若々しさと現代性を持っているのに驚きました。

 この映画で重要なもの、サントゥールという楽器。

台形の琴のようなもので、弦楽器ですが、演奏は、字幕では「ばち」と出ていましたが、ねこじゃらしのような、細長いスプーンのような細い2本の棒で、弦をたたく・・・のですが、その音色は大変、複雑で、繊細で美しく、イランの伝統楽器だそうです。

 しかし、伝統楽器だから・・・古典楽曲を演奏するのかというと、主人公のアリは、金持一家の次男ですが、サントゥール奏者として、カリスマ的な人気を誇っています。

その演奏は、ドラムやギターと一緒に、ポップな曲、そして演奏しながらアリは歌を歌うのですが、ロック、バラード、ラブソング・・・といった「若者にも人気のポップミュージシャン」です。

演奏というより、ライブですね。演奏する姿、歌を歌う姿は大変魅力的です。サントゥールの音色もエキゾチックでありながら、現代風な音楽ともとれる魅力満載です。

日本でライブあったら聞きに行きたいところです。

 しかし、アリは、麻薬の罠に落ちてしまいます。

麻薬漬けになり、ろくに演奏もできなくなる、トラブルを起こして、演奏の場もどんどんなくなっていく、スランプになれば麻薬に逃げる・・・という成功の時のアリの姿と没落した時のアリの姿の落差が、もう、とんでもなく迫力。

ダメになると、とことん、堕ちに堕ちていく。そのスピード感と迫力が、観る者を圧倒します。

 麻薬でボロボロになったアリを、とうとう妻も見捨ててしまう。

ひとりになり、家賃も払えなくなり、しかも、家は取り壊されて行く場をなくす・・・・。しまいにはホームレスに・・・。

 お金持の息子ですから、家族が出てくれば、問題解決するのでしょうが、アリの兄という人が出てきますが、40すぎても、仕事もせず、結婚も出来ない・・・そんな息子を抱えている問題もちらりと出てきます。

アリには、そんな家や家族への反発というのがあったのではないでしょうか。だから、簡単に実家にすがったりはしません。

 自分の今までを思うと、良いとき、悪いときというのがあって、山あり、谷あり・・・だったと思うのですが、今は、どうなのか・・・というと、さぁ、山なのか谷なのか、わかりません。

後から思い出して、あれは、良かった、あの時は、ひどかった・・・とその時気付かなかった事に後から振り返ると思い当たることが多いのです。

 アリも没落しても、結構、落ち込まず強気でなんとかしようとしますが、麻薬というのが、問題。

麻薬を吸って、ハイになっている最中は「最高!」なのでしょうが、麻薬を切らすと、「最低・・・・」という落差を痛々しく経験している様子を描くとき、回想シーンなどをからめて、「最高or最低」落差の描き方がメリハリがあって秀逸です。

 アリを演じたバハハム・ラダンという人が、迫真の演技と演奏と歌で、魅力的です。

ただのダメダメ男を描いたのではなく、「自分の事態に気がつくのが遅すぎた1人の才能ある普通の人」を熱演していました。

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