にっぽん泥棒物語

にっぽん泥棒物語

The Burglar Story

2007年11月20日 京橋 東京国立近代美術館フィルムセンターにて

(1965年:日本:117分:監督 山本薩夫)

山本薩夫監督特集

 わたしは日本の古い映画を、DVDなどでなく、きちんとスクリーンで観たい、という希望があります。

フィルムセンターでの特集上映は、そんな希望を細々とかなえてくれる企画です。

 今年は、今まで観たことのなかった山本薩夫監督特集。

社会派監督として有名なのは知っていましたが、ただ、左翼的に社会問題をつきつめるのか・・・というとこの映画などは、娯楽としても十分満足できる映画で、他にも忍者ものや怪談、現代劇・・・様々な「娯楽」要素を扱っているのですね。

 この映画は、三國連太郎が演じる泥棒が主役です。

戦争が終わった後の東北で、米や着物が高く売れることから、蔵破りをする・・・と同時に偽歯医者でもあります。

泥棒であって、決して人殺しはしない。病院がない村では、貴重な歯医者さんです。

 しかし、泥棒の時に、たまたま松川事件と呼ばれる、アナーキストたちが列車を転覆させた現場に居合わせてしまう。

警察からしたら、また、弁護団からしたら貴重な、裁判の行方を握る目撃者なのですが、泥棒だし、偽医者だし・・・警察は困る・・・というおもしろさです。

 前半は蔵破りをする手口・・・蔵にごりごりと穴をあけてしまう・・・偽歯医者なのに優秀で、人々から感謝・・・でも、警察の伊藤雄之助からは、目をつけられていて、こそこそ・・・という三國連太郎がとてもコミカルです。

東北弁がすごくて、時々、聞き取りができなくて、英語の字幕に頼ったりしました。

出てくる役者さんたちが、すごく自然です。

 しかし、松川事件の裁判の証人となって正直に話すと、真面目な場である裁判所は、そんな正直な話に大爆笑・・・という風刺がとても面白かったですね。

泥棒だからといって、変にやさぐれていない、いじいじともしていない、かといって、「俺は世界を変えてやる!」というアナーキーな思想の持ち主でもない。

お仕事をきちんとこなす人なのです。ただ、蔵破りと偽医者ですが。

 真面目に話せば話すほど、滑稽・・・熱弁をふるえばふるうほど、笑いを誘う・・・そこら辺の三國連太郎の正直な泥棒さん、というのが可愛らしいし、家族を大事にする人でもありますが、皮肉な顛末です。

 映画は、大変、爽快な終わり方をしていて、暗さ、みじめさ、深刻・・・というより、あっけらかん、としている面白さと人間性と社会問題・・・上手くとらえた喜劇だと思います。 

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