呉清源 極みの棋譜

呉清源 極みの棋譜

2007年12月6日 シネスイッチ銀座にて

(2006年:中国:107分:監督 ティエン・チュアン・チュアン 田壮壮)

 田壮壮監督、4年ぶりの新作です。

わたしは待っていたのよう。早く観たかったですね。

 田壮壮監督の映画はとても静かでいつも凛としています。そのたたずまいが好きなんです。

あまりアップを撮らなかった監督なのですが、この映画はなんといっても「美しい横顔」の映画です。

 昭和の初期、中国から囲碁の天才といわれる14歳の少年が来日しました。

といってもこの映画は、呉清源という人が囲碁で、勝っていく様子を描くものでもないし、厳しい囲碁の世界、しかも中国人で日本で頂点に立つ・・・といった苦労を描く映画でもありません。

 映画の冒頭、今もお元気な呉清源夫婦と映画で夫婦を演じた、チャン・チェンと伊藤歩が、穏やかに談笑しているところから始まります。

チャン・チェンは、呉清源宅に滞在して、その身振り、口調などを習得したという・・・確かに似ているんですね、顔とか。

 映画ではもう、日本の囲碁界では知らぬ人のいない存在の呉清源・・・どんどん勝負を勝ち続けるけれど、囲碁というのは考えるもの。

その考える横顔をじっくりと映す。

額が広くて、高い鼻、半分閉じたような眼、薄い唇・・・チャン・チェンの横顔で、知性と教養と頑固さを見事にスクリーンに映し出す。

日本人の19歳の女性、和子(伊藤歩)と出会って結婚、そして日本へ帰化。

ところが日本は、戦争へと向い、呉清源は結核に倒れて療養所生活をやむなくされる。

激動の戦争中、妻と2人で慎ましく暮らすものの、囲碁とは別の世界・・・新興宗教の世界にものめりこんでしまう。

 戦争中、帰化したとはいえ、中国人であるということは大変だったと思うのですが、そこら辺はあまり深く描かず、むしろ、精神の安定を求めて、新興宗教に走る姿の方を強調しています。

囲碁だけで、精神が保てるのか・・・そんな弱さも感じさせる部分でもありましたが、基本的にはこの人は冷静で真面目。

宗教団体とは決別する日がやってくる。

 映画の中で、よく新聞社が出てくるのですが、まだ、プロ野球もなかった時代、今のスポーツ記事に変わる話題は囲碁の対決だったのですね。だから、川端康成や坂口安吾といった囲碁ファンも周りにいたりします。

 しかし、どんなに頂点にたっても、はしゃぐことはなく、むしろ、自分を孤独に追い詰めていき、妻にすがるようなことは一切しない、孤高の人でもありました。

時には、自殺さえ、考えてしまうその精神の行き詰まり。

 映像はひたすら美しく、均整がとれていて、碁盤の上の白と黒の石が美しい。

そして、石を、ぴしり!とおく手の美しさ。

この映画の衣装はワダエミで、時代考証を実に詳しく調べたそうで、変な日本、変な日本語というのは出てきません。

呉清源は、日本語ができるわけですけれど、あまりしゃべらない。

ただ、そのたたずまいで、オーラを発し、落ち着いた知性をあふれさせています。

やはり、田壮壮監督の映画はたたずまいが、とても落ち着いていて素晴らしいのです。

0コメント

  • 1000 / 1000

更夜飯店

過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。