やわらかい手
Irina Palm
2008年1月4日 渋谷 ル・シネマにて
(2006年:イギリス=フランス=ベルギー=ドイツ=ルクセンブルグ:103分:監督 サム・ガルパルスキ)
自分のためでなく、家族のために・・・と奔走する・・・この映画の場合は祖母がかわいい孫のために・・・なのですが、全体を貫くなんともいえない「迷い」や「惑い」の雰囲気がとてもいいと思います。
暖かいけれど、現実を冷静に受け止めているという節度の持たせ方とアイディアとうまく融合していて感心してしまいました。
孫の難病を治すためには、オーストラリアに行くしかない・・・・と医者から告知されても、金がない息子夫婦・・・孫かわいさに祖母、マギー(マリアンヌ・フェイスフル)は仕事をしようと奔走するところから始まります。
でも、年だし、資格もないし、仕事のキャリアがない主婦だったマギー。銀行は担保もないのにお金を貸してもくれない。
そんな女性に世間はとことん冷たい。息子は疲労しきっているし、嫁とはなんとなくぎくしゃくしていて・・・。
ソーホー地区(風俗店が並ぶ)で見つけた張り紙。
「接客係募集」
ここがいいですよね。
一目で、やくざっぽ~いとわかるオーナー、ミキ(ミキ・マノイロヴィッチ)は、「接客って、どんな仕事だと思ったの?」
「ええと、テーブルを片づけたり・・・・」
店の雰囲気、いかにも風俗店だし、普通、わかりそうなのに、マギーはいい意味で世間知らず、でも、仕事してお金を得なければ・・・と必死なあまりのしどろもどろ・・・。
接客係というのは、ラッキー・ホールと呼ばれる壁の穴ごしに男性の自慰を・・・という・・・・相手の顔は見えないけれど、もう、びっくり!!!!!!ええええええええ!!!って顔のマギー。
ところが、おそるおそるやってみると・・・なんとマギーの手は「ゴッド・ハンド」だ・・・と大評判になります。
ここら辺の描き方が、下品でなく、ユーモラスになっていて、なんかなぁ・・・壁の向こうの男の人の「声」だけ、異様によく聞こえるってところは、笑ってしまうくらいです。行列のできる店になってしまう・・・名前もミキは勝手に「イリーナ」だ、と決める。
人気になって当然、賃金もよくなって、仕事もなれてしまえばね・・・・でも、この仕事は絶対秘密です。
職業に貴賎はない、というのは、実際難しいところで、金を稼ぐというところは同じでも、やはり風俗というのは・・・しかも孫のいる祖母が・・・っていうところが、ありそうで、なさそうで面白いところです。
ところが、このことは周りに知られてしまう時が来る。
でも、マギーはもうイリーナとして自信を持っているけれど、息子に知られて、あまりの拒絶に傷つくところ・・・「売春婦!」と家族にわめかれるなんて。
どうなんだろう・・・・売春婦ではないと思うけれど・・・なんかヒステリックに「売春婦!!!」と母に噛みつく息子の気持もわからないではないけれど、反面、なにいってんのよ、別に、いいじゃないのっ!!!!!売春婦じゃないわよっ!!!と息子の顔、ひっぱたきたくなるんですね。
イリーナは負い目をやはり感じているから、黙っておろおろするしかないのが悲しい。
でも、仕事がなんであれ、自分で働いた金で孫が助かる・・・という慈愛の眼をずっとし続けているマギーがよかったですね。
マギーは、オーナーのミキに何かと相談しますが、ミキはいつも冷静です。
「こんな平凡でつまらない年取ったおばさんなのにね・・・」と自嘲気味に言うと、無表情に
「そんな人間を雇った覚えはない」
とぶすっと言うひとこと・・・が好きです。仕事で認められるって嬉しいことだから。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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