再会の街で
Reign Over Me
2008年1月6日 恵比寿ガーデンシネマにて
(2007年:アメリカ:124分:監督 マイク・バインダー)
この映画は去年の東京国際映画祭のコンペティションで上映されました。
映画祭のコンペに出る映画だから、娯楽大作ではないと思っていたのと、アダム・サンドラー、好きなんです。
この映画についてはIMDBで大変詳しくその舞台裏とか、トリヴィアとか載っていましたので、興味のある方はご一読ください。
アダム・サンドラーのやった役は、最初、トム・クルーズを想定していて、キャスティングでブラッド・ピットの名前があがり、アダム・サンドラーは一度断っているけれど、脚本読み直して、出演、すごい熱演をしている、とか。
この映画の監督、脚本、そして脇役で出演しているマイク・バインダーという人は、コメディアン出身ということですが、とても真面目で、良識のある人だと思います。
この映画は良識の映画、かもしれません。
9.11テロ事件で家族すべてを失ってしまった、もう精神病すれすれになってしまった男(アダム・サンドラー)と、大学のルームメイトで今は、整形歯科医として成功している男(ドン・チーゲル)との出会いを描いています。
9.11テロ事件というのは、これからどんどん映画、ドラマ化されるかと思うのですが、戦争とかこういった実際の事件の被害にあった人たちが存在する・・・という、傷ついた気持を忘れてしまって、大国の大義をふりかざしたり、ひたすら攻撃的になったり・・・そういうところをこの映画はひたすら抑えています。
衝撃的だった、あの事件の映像を全く使わなかった・・・というところからも、その辺の抑え方は感じられます。
抑制の映画でもあるなぁ、と今、振り返ると思います。
抑制されているのは、家族を失ってからっぽの状態の男だけでなく、成功したアラン(ドン・チーゲル)にも言えることなんですね。
高収入、家族に恵まれ、何一つ不自由ないようでも、そんな「優等生な夫、父」の立場が息苦しくてたまらない、、、それをひたすら押し隠して日々過ごしているところに現れた、「何もかも失って、何にもしばられない男」
アダム・サンドラー演じるチャーリーはもう、政府からの慰霊金と生命保険でもう、仕事をする必要はない。
ただ、誰ともつきあわず、殻にこもったようになっている。
久し振りに会った同級生、というのは、監督演じるチャーリーの会計士、シュガーマンが言うように「君は、チャーリーの家族を全く知らない。知らないからチャーリーは君とだけつきあう」
チャーリーはスクーターに乗って、いつも突然現れて、遊ぼうという。何かあると、パニックを起こして拒絶反応しかない。しゃべり方もくぐもったような声で、相手の顔を見ないでぶつぶつつぶやくようにしゃべる。ぼさぼさの髪、テレビゲームしかしない家、家族なんかいない、言い張り、カウンセラーを拒絶する。
一番嫌なのは、妻の両親が、婿というか義理の息子と「娘と孫の思い出を共有しよう」としてくることで、ここはものすごくセンシティブな部分ですね。
遺族といえば夫もそうだけれども、両親だって同じなのです。でもチャーリーは、思い出を拒絶するということしか出来なかった事が理解できず、しつこくたずねてくる妻の両親。
ただ、アランは、チャーリーに振り回されているようで、でも、学生時代の遊んだ気分を久々に味わうこともあります。
音楽にあわせて楽器をひいたり、メル・ブルックスの映画3本立て(これが、ヤング・フランケンシュタインとか、すごく面白い部分だけピックアップしています)に行ったり、テレビゲームに夢中になったり・・・開放されているのはアランの方か?とも思えます。
しかし、チャーリーは現実と対峙するときがきます。
法廷で検事側から、見たくない、妻や子供の写真をつきつけられて・・・イヤホンでWHOのピート・タウンゼントの'Rein Over Me'を大音響でかけて逃げ回り、泣き叫ぶアダム・サンドラーの姿はあまりにも痛々しくて、明るいコメディアンのアダムが好き、の人からはショックかもしれません。
わたしは神経質な役だった『パンチ・ドランク・ラブ』などが好きなので、アダム・サンドラー・・・上手すぎる・・・過剰演技になりすぎず、かといって精神が崩壊しかけていて・・・ってところが迫力で、目がそらせません。
ここで、法廷の判事がドナルド・サザーランドなんですけれども、この映画の良識を短い出演ながら体現していて、しかも、監督演じるシュガーマンを、鋭く、'Shut up!'と一言で制してしまうところなんか、もう、大岡越前みたいだなぁ・・・。
良識と抑制の映画だけに、ひどく息苦しい、ぎゅうぎゅうとした空気、とても精神、情緒不安定のような、雰囲気をみっちり感じる映画ではありますが、撮影はとても綺麗で、スクーターで2人乗りして街を走る時の爽快さ・・・といったものの出し方も上手いのですが、安直に流れず、まじめに事件と対峙している監督の姿が、考え込んでいる監督の姿が見えるようで、観終わった後、重い何か・・・を残す映画です。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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