殺陣師段平

殺陣師段平

2008年1月10日 東京国立近代美術館フィルムセンターにて(生誕百年 映画監督 マキノ雅広(1)

(1950年:日本:104分:監督 マキノ雅弘)

 マキノ監督は、名前の「まさひろ」を何度も漢字を変えていますが、この映画から、「正博」から「雅弘」に変えています。その辺の改名を繰り返した理由などは、これから色々、調べていきたいと思います。

 時代は大正14年。

「芸のためなら~女房も泣かす~~」というか、主人公の段平(月形龍之介)は、歌舞伎仕込みの殺陣師です。

殺陣師は今でいうなら、アクション監督ってところでしょうか。

舞台での、立ち回りを考え、指導するという裏方であり、華々しく舞台に出ることはないのですが、時代劇もので欠かせない存在です。

 ただ、時代はもう新国劇が人気になってきて、段平の歌舞伎型というのは、実はもう「古い」

新国劇のスター、澤田正二郎(市川右太衛門)が出る「国定忠治」の殺陣をつけるのは、もう、俺しかいない!と固く思い込んでいます。

 ところが、学もなく、金もなく、字が読めなくて、ひたすら古い形式的な型にこだわる段平に対して、大学を出たような新国劇のインテリ役者は、「リアリズム」・・・を要求する。

がっかりする段平。

リアリズムってなんや?わからん。国定忠治はあれでええんやっ!殺陣はわいにしかしかつけられんのや!

 段平は、周りからひそかに「大きなやや(赤ん坊)」だから・・・といわれているように、自分の思い通りにいかないとだだこねるような、酒飲んでは大口たたき、自信家で、時代の流れには全く気がついていない・・・という単純で困った人物。

 殺陣のことしかわからない・・・そんな殺陣ひとすじの男を髪結いをしながら、生活を支えている、女房のお春(山田五十鈴)

この山田五十鈴演じるお春・・・というのが、すごい女房なんですね。

まさに、「大きな子供」のような旦那を、なだめすかし、上手くおだて、言うことはぽんぽんいいながらも、いざって時は、もうお春に頼るしかないというのが、わかっているのか、段平?なんて思ってしまいます。

 よく夫婦の間で、「結婚して何年や?」というのが出てきますが、お春は「ええ、もう、いやいや8年」とか「騙され騙され8年だよ」と言いますが、なんだかんだいって一番、殺陣師という仕事であることを誇りに思っているのが、女房のお春。

 酒飲みの段平が風邪をひいたとき、「酒や、酒っ」と言うのを、「へえへえ・・・」と言いながら、上手く薬を飲ませてしまう・・・むくれる段平はほっておく。

ひたすら従順な良妻賢母というより、活き活きとしながらも、夫を支え、たてていく・・・なんて、なかなかねぇ、でも、山田五十鈴演じるお春はそこのところを、実にうまく、賢く立ち回っています。

お春の「酒を飲ませるタイミング」と「金を渡すタイミング」って、いや~~~~素晴らしく頭の良い女性なんだなぁと。

 しかし、女房、お春の具合が悪くなっても、殺陣師としての仕事しか頭になくて・・・とうとうお春を失う段平。

5年後、酒のせいで、中風になってしまった段平。もう、寝たきりで動けなくなってしまうのですが、そんなとき、澤田がまた「国定忠治」を演じるということを知って・・・・・「殺陣つけたるでぇ」

 国定忠治の物語といのは最後、中風になった忠治がお縄になるところなのですが、そこで初めて、澤田が求めてきた「リアリズム」を奇しくも中風に倒れた段平の中風演技指導とがぴったりクロスする・・・という・・・もう殺陣に生きて、殺陣に死ぬ・・・フォーエヴァー、俺やっ!って感じで血気迫るものがあります。

 開演ぎりぎりになって、段平の「殺陣」を伝えにきた、養女のお菊・・・舞台はもう始まっている・・・どうするのか・・・といったところは、スリリングですね。

時間がないっ・・・・というと、お客さんに事情を説明するときの右太衛門の堂々とした説明なんて、かっこよすぎますね。

脚色は黒澤明監督がしているのですが、こういう、男の心意気!みたいなものは、実に上手く劇的になっています。

 ひたすら自分に都合のいい理想の女性、女房像というより、段平も「お春はなあ~すばらしい女房なんや!」と言えるところがね。

なんだか、今の時代、根っこの部分でお互いを尊敬、認め合うことができる夫婦像・・・ってあまり見ないなぁ、なんて思いました。

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