世紀は笑ふ

世紀は笑ふ

2008年1月26日  東京国立近代美術館フィルムセンターにて(生誕百年 映画監督 マキノ雅広(1)

(1941年:日本:93分(不完全):監督 マキノ正博)

 この映画は、当時のマキノ監督ではめずらしい現代ものなのだそうですが、底辺にあるものは共通しているというか・・・人情ものですね。

笑う、という言葉がタイトルになっているのはめずらしいな・・・と思いますが、観てみると笑いあり、情けあり、恋心あり・・・の人情劇。

『次郎長三国志』で、浪曲を披露していた廣澤虎造と人気映画俳優の杉狂兒が、ラーメン屋台をやっている親友同士です。

 最初、風呂屋(ハイカラ湯という名前の銭湯)で、うなる浪曲素人の廣田大造(廣澤虎造)が大人気で、浪曲をやっている小屋はがらがら・・・・。

浪曲を本格的にやってみたら・・・と誘われても、親友を捨てることはできない・・・と断るものの、それを知った親友の杉野凡作(杉狂兒)はあえて「喧嘩をふっかけて」友情決裂させて、大造を浪曲師にする背中押しをします。

おだやかな大造ですが、さすがに怒ってしまい・・・・・そして、浪曲師として成功していく大造と、芸人一座に入った凡作の2人のすれ違いと和解・・・なのですが、先に成功するのは大造。

 喧嘩をふっかけた手前、顔を合わすことができないものの、大造の成功を誰よりも喜んでいる凡作・・・っていうのが、泣かせるのです。

 凡ちゃんが、好きな女の人、おふみさん(轟夕起子)に呼び出されて、ひとりわくわく大騒ぎ・・・でも・・・・・っていうところがいいですよね。

凡ちゃんが妄想ふくらませた、おふみさんとの会話・・・・がどんどんくじけていく様子。

「静かですね・・・・・ここでね、鳥が鳴く・・・ああ、鳥が鳴いていますね・・・ええ、そうね・・・」なんて・・・ですが実際は、滝のところで待ち合わせ、静かですね・・・と無理に言っても、「え?」「静かですね」「え???聞こえない・・・」そんな調子です。

でも、おふみさんが好きなのは・・・・大造だと・・・・告白されて・・・がっかりするけれど、親友の大造ならばな・・・なんていうところは、「身を引く美学」

 この映画は身を引く美学なんです。

親友のために、身を引く、嘘をつく・・・・でも、成功して高慢になってしまった大造と対面した凡ちゃんが「大切なのは、おえらい御贔屓じゃなくて、浪曲を聞いてくれるお客さんだろう!」と怒るところなど、監督が「観客が喜ばなくては・・・映画とは・・・」という考えがわかるのです。そういうところを、嫌味なくすらり・・・と流せるのがすごいと思います。

 しかし、凡ちゃんは、マジックが得意なのですが、そんなことから芸人一座で活躍するようになり・・・映画の世界へ・・・。

 実際、大人気だった浪曲師の廣澤虎造と、人気俳優だった杉狂兒の個性をそのまま、映画にしてしまったところもなるほどなぁ、と思います。

シンプルなのですが、自分も大切だけど、友人も大切にする・・・・そんなことがとても可愛らしい映画になっていました。

当時の浪曲の人気ぶり、なども今見るととても興味深いです。

芸人一座では、マジックあり、歌あり・・・で、エンターテイメントとしても楽しめる笑って人情ホロリ映画。

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